北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

ベルギー認知症研究所

認知症という言葉は知っていたけれども、アルツハイマーとの違いはなんだか知らなかったし、身近で認知症の人がいるわけでもない。ただ、周囲の研究者の中で認知症関連の研究をしている人が増えてきているなぁという感覚は持っていて、興味がないわけではなかった。ひょんなことから、認知症の人たちと(仕事で)交流するようになって、人ごとじゃないなという気持ちが高くなってきたと同時に、欧州での様々な取り組みが興味深く思えてきたりしている。

その中の一つ、Dementia Lab(認知症研究所)は、ベルギーの研究者らが中心になって進めている研究会で、昨年からワークショップ形式の会合を開催している。この中心となっている研究者のうちの一人ニルス(ビデオにも出てくる男性の方)は、以前から研究関連で交流していて顔見知りということも手伝って、ワークショップにも参加してみようと思っている。世界的に高齢化が進み、高齢化に伴って認知症などの課題がより社会に顕著に見られているからこそ、色々とこんなアクティビティが生まれてきているのだろう。

youtu.be

www.dementialab.com

 

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デンマークの父親教育

f:id:jensens:20170705001603j:image知り合いのデンマーク人男性でシングルファーザーがいる。結婚して子供が生まれたものの、奥さんは精神障害を持っていたようで、子育て放棄。結局、離婚して、知り合いの男性側が親権を獲得し、子育てを(自分の母親と)することになった。

この知り合い、独身時代から知っているデンマーク人男性なのだけれども、子供好きのタイプには見えなかったし、子育てを熱心にするようにも見えなかった。だけれども、子供が生まれてからの変容ぶりには驚かされた。自分の子供を愛していることがよくわかるし、自分の子供が一番可愛くて、優秀で...、良い意味で親バカ極まりない。

とは言っても、部屋の片付けなど女性が気にするポイントは、あまりに気にならないらしく、以前遊びに行ったら部屋はかなり散らかっているし、ホコリだらけ。ただ、子供の服装はきちんとしているし、しつけや教育にも熱心だ。

そんなデンマーク人パパを悩ませている問題が、デンマーク社会福祉局からのお誘いだ。どうやら、父親としての役割を学ぶための授業受講の要請がきているようで、仕事を休ませ、彼に「父親教育」を授けたいらしい。どういう経緯で父親教育対象者にピックアップされたのか詳しいことは聞いたわけではないけれども、なんとなく想像がつく。

そのデンマーク人パパ、実はかなり変わり者の天才肌で、あまり社会性がない。いつもジョークなのか皮肉なのかわからない軽口を叩いて、その態度は初めて会う人に対しても変わらない。公共機関の特に教育に王道があると思っているうるさいおばさま方には、天敵にされそうな人だ。子育て方法に合意ができない人から教育を受けても仕方ないと、呼び出しを無視し続けているけれども...。

ただ、あれだけ子どもを愛し子どもに英才教育を授けている父親を呼びつけて、父親教育をしようだなんて、馬鹿げてる。女性は、母親にどのようになっていくのか、考えて欲しい。特別な「母親」教育があるのではなくて、皆、試行錯誤で母親になる。男性だって試行錯誤しながら、父親になっていくんじゃないだろうか。

(写真の親子は、本文とは関係ありません)

 

口頭試問とデンマーク的評価

f:id:jensens:20170630052243j:imageまたしても口頭試問の時期が来た(デンマークでの口頭試問の受け方口頭試問、再び)。今期は、ほぼ1週間缶詰で、2人で合計70名ほどの学生を評価する。

今回、直前になってセンサー(外部の試験官)のキャンセルが発生したために、なんと4人のセンサーが日替わりで同席することになった。同僚が別のセンサーと半数の学生を評価するので、70名の学生に対し、合計センサー5人と授業担当者2人での大掛かりな最終試験である。日替わりのセンサーだから、毎日、どんな授業をしてきたのか、どのような学習達成目標があるのか、それぞれにスクラッチからブリーフィングをしなくてはいけないのは辛い..。初めての人と話すのは苦手ではないと思うけれども、学生の半年がかかっているこの短い1日に相手を理解して対応を調整しつつ、試験を一緒に実施するのは辛い。とはいえ、同じ分野の研究者と知り合うチャンスでもあり、彼らがどんな考え方をしているのかを見ることができるということもあり、うまくこの機会を活用したいところだ(無理やり前向き)。

今回は、4人のセンサーに大きな衝撃と刺激を受けた。1日目のセンサーは昔の同僚ヨアキムで、今回の4人の中ではどちらかと言えば厳しめだった。でも、センサーとしての立ち位置を心得て、上段に構えて、質問を繰り広げる、とても的の得た質問をするセンサーだ。学生の受け答えを引き出すために質問のクオリティを調整し、優しい質問から挑発するような質問まで多種多様な質問を投げかける。この一発勝負の試験の場で、よく学生を挑発できるなぁ、と改めて感心する。2日目のセンサーは、バリバリ工学系からデザインに転向した研究者ラザで、言うことが的を得ていて且つ厳しい。とは言いつつも、去年のセンサーとは大きく異なるスタンスで、授業担当者(私)の意見を尊重してくれる。3日目、4日目は、あろうことか...初めのてのタイプ。めちゃくちゃポジティブ思考のセンサーで調子が狂わされた。

デンマークの口頭試問を理解してもらうために簡単に試験の流れを説明すると、フレームとしては下記のような流れになる。

  1. 学生が入場・お互いに挨拶、試験官から本日のスケジュールを説明する
  2. 学生が5-10分プレゼンする
  3. センサーを交えて3人で、プレゼン内容やレポート内容についてディスカッションをする
  4. 学生は一時退出、センサーとパフォーマンスについてディスカッションし、評価をその場で決める。
  5. 学生再度入場、評価を理由とともに発表する

口頭試問を進めるための私が持っていたゴールデンルールがある。中でも一番重要なのは、センサーの判断に最終的には委ねること、だ。授業担当として、学生のパフォーマンスに対して言うべきことや自分なりの評価は主張するべきだが、授業担当者がいかに評価したとしても、センサーから見て不可であれば不可なのだ。学生を除いた、センサーとサシでの議論の時間は5分ほど。センサーが全く異なる評価をしたり、議論が紛糾しても、5分で終わらせないといけない。だからこそ、私は、口頭試問のディスカッションの際には、学生が得意そうな内容についてまず質問するし、より深い内容理解ができているかどうかの確認はするものの、あえて意地悪な質問はしないことにしている。意地悪な質問は大抵センサーがするからだ。センサーとのサシの議論においては、私が評価Bと考える場合は、評価Aから始める。つまり、私のスタンスとしては、まずは何はともあれ学生をポジティブに評価する。どうせセンサーが評価を1-2段階下げるからというのが前提に成っているのだけれども。

ところが、3日目4日目のセンサーは、意地悪な質問は全くせず、どうしたものかと思っている間に議論の時間は終了してしまうし、点数をつける段階でも私の評価に概ね賛同してくれてしまったので、批判的な議論に全くならなかった。ここで私は、戦略変更し、学生の批判もするべきだったのだろうか?それでは、1日目、2日目の学生に申し訳ないと考えているうちに、機を逸してしまった。

定量評価でわかることと定性評価でわかることは異なり、どちらのテスト形式も良い点と悪い点がある。主観はなるべく入れないようにするべきだし、評価基準も統一するべきであると思うものの....、どんなセンサーに当たるかは運、そして運も実力のうち...。

 

デンマークで手術再び

f:id:jensens:20170624230151j:image4月にデンマークで再度眼科の手術をし、早2ヶ月。落ち着くまでには、4-5ヶ月かかりますよ、と言われているけれども、術後は順調だ。視野の左部は未だに二重に見えるし、午後に30分休息が必要なのはいまだに変わらない。ただ、正面の像がダブって見えないのは、数年ぶり。世界の見え方が、文字通り一気に変わった。完全に回復することはおそらくないんだろうと、現実を突きつけられた気分ではあるが、それでもはるかに快適な毎日になったのは、喜ばしいことだ。ご心配をおかけしている皆様、いつも気にかけてくださってありがとうございます。私よりもはるかに大変な状況にいる人が、ごまんといることの世の中で、より多くの人が、もっと健康で幸せでいられるように、願わずにはいられない。

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王立劇場で琴を聴いてきた

f:id:jensens:20170618232922j:image思いがけないお誘いを受けて、デンマークで日本のお琴を聞くことになった。コペンハーゲンのskuespilhusetで開催されていた「琴の響き」。今年は、日本デンマーク外交樹立150周年記念ということで、関連行事が目白押しだけれども、その一環として日本の皇太子がデンマーク訪問している。

日本の皇太子、デンマークの皇太子夫妻が来るので、ということで行くことにしたようなものだけれども、いやはや…、よかった。皇太子も素敵だったけれども、公演が面白かった!2日間の短い公演日程で、また聴きに行くことができないのが残念だけれども、日本に帰った時には、探して聴きに行こう!と思わされるぐらいよかった。しかもとても良い席で...ありがとうございます。

東京藝術大学教授萩岡松韻氏率いる11名の日本伝統音楽奏者のことを私は何も知らない。ただ、それぞれの奏者が個性にあふれていて、驚きの連続だった。琴の奏者深海さとみさんは、技巧が圧巻でまるでロックのようにまさしく技術で琴線に触れた。琴があんなに激しいものになりうるとは知らなかなった。盧慶順(No Kyeong Soon)さんの鼓のリズムと調子(っていうのかな)の取り方そして佇まいはため息ものだったし、三味線のバチさばきもかつてはエンターテイメントであった日本芸能真髄を見せられた気がする。田中奈央一さんの箏も姿勢からして素敵で、三絃や唄もこなすマルチタレントぶりは圧巻。異なる流派の尺八奏者二人(友常毘山、青木彰時)が参加したというのも、面白かった。吹き方や雰囲気が違ったので、それが流派の違いと言うことなんだろうか(もちろんよく知らない)。

女性の琴奏者がカミソリの刃のようなシャープな演奏でともすればピリピリとした雰囲気を醸し出す一方で、萩岡氏は皇太子も臨席するこの機会を存分に楽しんでいるようだった。萩岡氏の芸術家としての側面をもっと見て見たくなったし、こういう芸術家を教授とする藝大(だって大学だよね?!)にも興味が湧いた。20年代やそのまた昔、また80年代に作曲されたモダンな演奏もあり、演奏家のスキルも手伝って、すっかり日本伝統音楽のイメージが変わった。

今回感銘を受けたのは、外国で日本芸能に逢うといったような感傷的な気持ちからではないと思う。ちょっと大人になったから見えて来るものが、見えて来たのかな、そんな気がしている。

CPHヘルスイノベーション

f:id:jensens:20170615160245j:imageCopenhagen Health InnovationのプログラムCharacteristics of the Danish Healthcare System - Copenhagen Health Innovationに行ってきた。

コペンハーゲンビジネススクールと私がプロジェクトで関わるデンマーク工科大学とが、コペンハーゲンエリアの病院やヘルスケア関連の団体と共同で開催した2日間のワークショップだ。大元は、ヘルスケアとイノベーションをテーマにするEUプロジェクトで、だからこそこんな小粒のワークショップですら資金もEUから出ている。フリーランチとか...。

現在、REACHというデンマーク工科大学の先生と一緒にやっているEUプロジェクトに関わっている関係で、こんな華々しいイベントに時々参加依頼が来る。REACHプロジェクトは、センサーなどIoT関連機器を活用しつつ、健康に不可欠なモチベーションをいかに持たせる仕組みを構築するかなどの課題に取り組んでおり、詳しくは以前の記事を参照してほしいが、意外と面白いプロジェクトになっている。

複雑な医療の世界だからこそ、複雑で解決策が明確にはわからない事柄の課題解決をするための策としてイノベーションの方策が練られているんだなと改めて感じる次第。

f:id:jensens:20170615160225j:image今回のワークショップで、現在進行形のデンマークのヘルスケア周りとそこで発生している新しいIT関連の取り組みに触れることができた。全く知らなかったプロジェクトもあり、この5月から走り始めているプロジェクトとか、この9月から走り始めるモバイルヘルスアプリプロジェクトとか…、また改めて調査して報告したいと思っている。

ITのインフラが整い、市民のネットワークやITリテラシーが高くなっているデンマークだからこそ、進めやすいプロジェクトだと改めて感じる。