北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマークの病院のサービスの質について

f:id:jensens:20160530022538j:imageデンマークの病院に当事者として関わることが多々あり、それなりにデンマークの医療について一家言出てきた今日この頃。特に、病院におけるサービスについて、色々と考えるので、それについて備忘録として記録しておく。

手術前のブリーフィングjournaloptagelseに病院に娘と義理の父(デンマーク人)と行った時のこと。旦那が出張中で、一人で行くはずが、朝の8時に検査ということで娘を学校に送っていくには間に合わず、また、たまたま義理の父が我が家にいたことから、なぜか3人で行く羽目に。到着したら、前回検査で1時間待たされたのとはちがって、すぐにコンサルルームに呼ばれた。幸先良し。その後も待たされることなく、対処も不可分なく。特に問題ない訪問で、どちらかというと私の印象は「無駄がなく、効率的プロセス」よろしい。だった。ただ、帰宅後、義理の父が、憤慨して私に言った。「事務的で失礼な医師たちだ!」

手術後の翌日検査に行った時のこと。まだ周囲がよく見えないので、旦那に手を引いてもらいながら。これまた、それほど待たされることなく通された。診察は、2〜3人が、立ち替わり入れ替わり。いや、実際は私が移動するのだけれど。医師は、早口で質問し、手際よく検査する。検査や問診の最中に、看護師やら技術士が入れ替わり立ち替わり、医師に指示を仰ぎに来る。医師も、出たり入ったり忙しい。一般診察室なのに、まるで戦場。その後、移動して待っている間に、目の前にかかっているホワイトボードを見ていて気付いた。旦那と話してて合意したのは、そのボードは、出欠表部屋割り表なのだが、病欠を取っている人が、少なくとも10人中3人。

2つの例で何が言いたいのかというと、医療治療技術や質でいうとデンマークは悪くないんじゃないかなという一方で、課題は結構深刻ということ。

義理の父は、ガンが発見された時、日本でも珍しいロボット治療が地方の病院で可能で、ことなきを得た。つまり、地方にもそのような高額先端機器が備わってるということだ。最近も、日本人が地方自治体のアレンジでアメリカにガン手術に行った。デンマークでは、その特殊な癌治療のための機器がなく米国のデンマーク人村が所有していることがわかったために米国での治療とあいなった。その費用は全て国持ち。家族の渡航費も国持ち。散々デンマーク医療について否定的な意見を言っておいて、今更なんだ、と思うかもしれないが、デンマーク医療の課題はその医療の質にあるわけではない。

病院サービスのサービス受領側になり考えたのは、デンマーク医療の課題は、デンマーク社会の強みとなっている部分(ワークライフバランスとかフレキシキュリティ)がうまく機能していない、もしくはその強みが守られているために起こるんではないだろうかということだ。

医療関係者の圧倒的な精神的余裕のなさと仕事量の多さは尋常ではない。これはどこから来ているかというと、一部、デンマーク独特の社会構造からだ。デンマークは人件費が高いから、簡単に人を雇用できない。独立性が高いから、看護師は「医師の秘書」であることを拒む。だから、医師は誰でもできる本質ではない仕事(カルテを運んだり、看護師を探しに行ったり、患者の車椅子を押したり)もしなくてはならない。医療は少ない人数で回さざるを得ず、そこで、病欠が出た場合は、高技能者である医師を含めた既存メンバーでカバーするしかない。

幸せの国は、どこかに存在するわけではなく、模索しながらつくっていくものだと、誰が言ったんだっけ。