北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマークの子育て支援策に隠される暗部

デンマークの子育て支援策にも述べたように、デンマークには支援金やら乳児支援私設やら面白い子育て支援策が多々あって、働く女性にはやさしい場所と思われている。実際に生活していて、その恩恵を受けることも多くて、すばらしい仕組みが沢山だ!なんて思っていた。日本でも、保育園が足りないといわれているけれども、個人が公共サービスの担い手となって、少数の子供を見る仕組み(以前紹介したダオ・プライDagpleje)を導入することで、一時的な保育園不足の一部は解消されるのじゃない?!

ところが先日3人の子供の母親で研究者の女性に会って、ダオプライというデンマーク子育て支援策は、実は良い面ばかりではないのだということが良くわかった。私たちのように日本語を学ばせたいからといったような目的があり、選択肢としてあるのは嬉しいことなのだけれど、一時しのぎとして導入されたその仕組みがあるゆえに、恒常策としての一般的な保育施設設立が先送りされる事態に陥っているのです。

その女性が住んでいるスキャナボーと呼ばれるユラン半島のオーフス近くの町には、保育園がないんだそうだ。保育園を設立運営することを考えると、町民にダオプライを活用してもらったほうが地方自治体としては余計な予算をかけなくて済むから。そんなわけで、この町に住む小さな子供を持つ母親が仕事に復帰するには、ダオプライを利用するしか方法がない。地方自治体が雇用する地方自治体のダオプライとプライベートのダオプライと選択肢はあるけれど、いずれにせよ、保育園という施設ではなく、個人に子供を預けることになる。

このダオプライ、個人が地方自治体の助成を受け、公共の仕事として面倒を見るのが基本なわけだから、その個人ダオプライさんが病気などで倒れたり、その子供が病気になったりすると、自分の子供は、代わりのダオプライが自治体から派遣され(実際には子供が相手の家に行く)子供の面倒を見ることになる。私が話を聞いた女性が使っていたのは、公共ダオプライなのだけれど、その方は持病があって、しょっちゅう「今日はあなたの子供の面倒見るのは無理ですー」という電話をよこしたらしいのだ。3歳未満の子供がいつも違う人に面倒を見られるというのも問題ながら、代わりのダオプライの家まで、朝の忙しい時間に迷いながら車や自転車を走らせなくてはならない。これが非常にストレスで、幼稚園に入れる年齢になってようやく安心したという。

更に、デンマークでは、病欠で休める日数というのが決まっていて、その間は有給となる。休んでも休まなくても、給料がもらえるのならば、病気と言って休みます、というセコイ人たちも多い。きちんと病欠日数を計算して、すべて使い尽くすことは、当然の権利と考えているのじゃないかと思わされるのだ、実際のところ。デンマーク政府が作った良心的仕組みがこのように「悪用」されるのは、残念なのだけれど、先ほどの友人のダオプライはその人種なのではないかと勘ぐりたくもなる。そんな疑問を提示したら、人のいい彼女は「そんなこと無いわよー。腰の持病がある人だったし」と非常に好意的な返答をくれた。

話はそれたけれど、この不足する保育園を補う上質の策と思われるダオプライという仕組みも、物理的な場所があり定時に開園閉演する保育園の利点をすべてカバーがすることはできないのだ。純粋デンマーク人は、(デンマーク式)教育を施してくれ、信頼できる先生や場所が確保され、他の大勢の子供たちと交流ができる保育園をまず第一の選択肢として選ぶ。実情はわからないけれど、コペンハーゲン市が配るダオプライの仕組み説明書には、ムスリムの人たちのダオプライ体験談が掲載されているし、保育園にもれた子供や外国人が主にダオプライを使っているのかもしれない。

私個人的には、ダオプライの仕組みは、子育ての社会化が進むデンマークならではのデンマーク式文化洗脳教育を避けつつも、デンマーク文化と日本文化をバランスよく取り入れる方法として、また、信頼のおける個人に個人的な愛情を感じて娘を見てもらえる方法として、保育園では得られない利点があると非常に評価しているだが。