北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマークのウェルフェア・テクノロジー(Welfare Technology, 福祉技術)

  • 枠組みを作る国と枠組みの中に入れ込もうと苦労する国

最近気になっている言葉の一つウェルフェア・テクノロジー。デンマークの新聞や政府のパンフレットなんかで見ることが多くて、福祉・介護関連の施設を訪問した友人も「デンマークのウェルフェア・テクノロジーって進んでるんだってね!」なんて話をしてくれた。ウェルフェア・テクノロジーってなんだろう、と、調べてみると、案の定、デンマーク発信の記事でよく使われていて、デンマークが創った(率先して使っている)言葉のようだ。政府発行の雑誌の解説を私なりにまとめてみると、下記のように説明できるのではないかと思う。

ウェルフェア・テクノロジーとは、先端ロボット・IT技術をデンマーク独自の福祉の切り口からアプローチしたことで生まれた枠組みで、近年、デンマークでは、医療・福祉・介護分野と先端技術の融合形として頻繁に使われるようになって来た用語。具体的には、医療・福祉・介護分野における市民の安全と利便性を高める技術であり、医療・福祉・介護分野従事者の労働負荷を軽減する技術と定義されている。例えば、GPS内蔵型の杖や車椅子、センサー内蔵型の衣料(血圧やその他の値測定を支援する)、自動開閉型の窓や扉などを備えたインテリジェント・ホーム、セラピーロボット、アラームやセンサーとインタラクションを行う情報システムなどが例として挙げられる。

これらは、日本では、多くの場合ロボット技術や、ユビキタス技術などの枠組みで語られることが多い先端技術なのだけれど、デンマークに場所を移すと、ウェルフェア・テクノロジーになる。デンマークの医療・福祉・介護は、世界的に見ても広く認知されているから、それに先端技術を掛け合わせ、「ウェルフェア・テクノロジーはデンマークの十八番です」というと、本当にデンマークは、ウェルフェア・テクノロジーの先端技術国であるようなイメージを受ける。だが、間違ってはいけない。確かに、興味深いシステムや技術は多々見受けられるのだけれど、日本の類似技術(ロボット技術やユビキタス技術)も、非常に興味深く、技術的にも優れている。

今後、ウェルフェア・テクノロジーの先進国デンマークといったような標語が日本で見られないことを祈ると共に、考えさせられたのは、デンマークの枠組み作りの上手さというか、PRの上手さである。実際私は、今後「ウェルフェア・テクノロジーの先進国デンマーク」ののぼりがどこかで見られても驚かない。デンマークがその分野で先進国なのは、その枠組みをデンマーク自身が作っているからで、その枠組みどおりに見れば、確かに「先進国」だからだ。翻って、「○○の国日本」と、言うとすると、皆がイメージできる日本を、国はPRできているだろうかと考えると心もとない。日本は、借り物の枠組みを使うことが多いような印象を受けるが、借り物の枠組みでは、やはり日本の特徴を包括することは難しいだろうし、枠組みを創り出した大元と勝負するのは不利である。

デンマークIT大学でのWelfare Technology研究がDRで放映されます。Danskernes Akademi.