北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デジタルの受容度

f:id:jensens:20160118022316j:imageデンマークは先進国の中でも、特に社会において電子化が進展している国の一つだ。デジタルリテラシーも総じて高いと言われ、情報弱者は、8-90代のシニアや身体精神障害を持つ人8%ほどの人たちと言われる。

デジタル化の文脈では、例えば金融系の動きは面白く、カード社会はすでに80年代のダンカード(デンマーク独自のデビットシステム。今はVISAなどのクレジットサービスが付帯していることが多い。今でもデンマーク国内では、ダンカードじゃないと使えない店舗が多い)導入時に始まり、モバイルペイ(スマホベースの少額決済システム)の広がりで、現金を使う機会が極端に減ったことは、以前にも述べた(デンマークから紙幣やコインが消える?)。

ただ、時代に反して(?)自分のやり方を貫き通す人たちがいる。どんなにカードが便利でも、モバイルペイが浸透しても我関せずと、現金を持ち歩き、スーパや店頭で小銭を一つづつガマグチから出して支払をする人たちだ。その主張を曲げない彼等たち、別の名を「80-90代シニア」という。

なんでだろう?カードの方がわざわざ小銭を数える必要もなければ、記録も確実に残る。支払いは、カードを出して暗証番号を入れるだけで、紙幣や小銭をわざわざ引き出しておく必要もなく手間が省ける。モバイルペイは、小銭を持ち歩く手間をなくし、カードも、身体機能が弱ったり、小銭を確認することが難しいシニアにとって、細かい計算をしなくて良い、支援機器として活躍されるポテンシャルを秘めている便利な仕組みに違いないのに。

で、気がついた。一昔前に思えるカードの導入も、彼らにとっては、新しい物事を受け入れるのが困難になる5-60代に起こったことだということ。いくら便利と言われても新しい概念を受け入れる負担と従来のやり方を継続することを天秤にかけた結果、従来型をとることにした人たちなんじゃないだろうか。

もしこの仮説が正しければ、シニアにITを使わせるための試みがいかに無意味なことでありうるか、またいかにシニアに精神的負担を与えているかが、わかるというものだ。

北欧では、現在シニアにempowerment という文脈で、ITスキルをつけさせる、ITで毎日の生活支援を行うなどの試みが盛んだ。「毎日の生活を便利に」し、「孤独感を和らげるためのシニア版フェイスブック」や、孫とコミュニケーションをとらせるためのスカイプ風アプリなどもある。

ただ、彼らの多くは、自らの意思においては、生活習慣を変えず、カードの利用も避ける人たちだ。私たちが「便利だから」と考え、良かれと考えていることが本当に彼らの生活を向上させることにつながると、誰が保証できるのか。タブレットを使わせることは、果たしてシニアのエンパワーメントになりうるのだろうか。