北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマークのヘルスケア・ビックデータの現状

f:id:jensens:20160816183356j:imageデンマークは、個人番号(CPR)が68年から導入され、医療情報データベースも77年に構築され、様々な個人医療保健データが、個人番号に紐付けされて蓄積されている。だから、ビックデータ、IoTの時代におけるデンマークの優位性は確固たるモノだ。そんな話を聞いたことがある人も多いかもしれない。

ただ、実際の所、データベースの互換性が70年代のレガシーシステムから確保されているわけではないし、統合やネットワーク化が想定されていなかった時代から蓄積されているデータを「ビックデータの時代です!」といって即座に活用するということはかなり困難だ。だから、CPRが鍵になり大量の高品質ヘルスケアデータが蓄積されているいう状況であっても、CPRを軸に個人データを抽出し、社会的状況と病気の関係などを分析したり、健康データと知能の関係なんかを割り出すといったようなことが簡単にできるわけでは全くない。デンマークのテク系エッジの効いたデザインコンサルLeapcraftのレポート(Mapping the Healthcare Data Landscape in Denmark)によるとデータエントリーは、初期医療で16箇所、高度医療で15箇所あるというから、それをいかに統合し活用するかは大きなチャレンジであり可能性でもある。

ただ、世界的に見ると、より優位な立場いることは確かだ。リッチなヘルスケア情報が70年だから個人番号を鍵として関連各所で蓄積されていることは事実で、分散し、異なるデータセットの枠組みである状態であったとしても、それは宝の山でありダイヤの原石だと言えるのではないかと思う。

現在の私が関わる研究プロジェクトの一つに、EU資金を獲得して始められたREACHプロジェクトがある。このREACH2020は、4カ国17組織(大学、医療保健関連機関、企業)があつまる700万ユーロのEUプロジェクトだ。このプロジェクトは、高齢者の健康維持・個人にテーラーメイドされたヘルスケアを提供するためのサービスシステムの開発を目的とするもので、モチベーション技術やセンサーを活用して、治療やケア環境を個人ニーズに合わせる方法が模索されている。その鍵となるのは各種センサーなどIoT(Internet of Things)だ。いわゆる一般的にIT機器として認知されるようなロボットのようなもではなく、ネットワークに繋がるセンサー内蔵型の家具やムードセンサー、バイタルセンサー、活動測定センサーなどの環境に溶け込み、リアルタイムでデータを収集し、結果的にさりげなく健康維持や回復を支援し、運動を促すことに貢献することができる可能性を秘めたインターネットに接続されネットワークされたモノ、IoTである。

仮にこのREACHプロジェクトで収集される個人のバイタルデータや行動データなどを、個人の病歴や健康履歴とリアルタイムでクロス分析することができれば、より長期的な視点からの望ましい治療方法やリハビリ方法、健康促進手段につながるんじゃないだろうか。長年のヘルスケアデータの蓄積があるという意味で、このような近未来の(予防)医療が国家規模で実現に近い場所にいるのがデンマークなのではないかと思う。

ちなみに、IoTは様々な分野で注目されているが、よりポテンシャルが高いと思われている分野の一つとして、医療保健健康分野がある。デンマークのITを考える上で、またIoT、ビックデータを考える上で、この分野はかなり面白い試みがされている。