北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

カロリンスカがすごい

f:id:jensens:20170214194340j:imageスウェーデン-ストックホルムにあるカロリンスカ研究所(Karolinska Institute)は1810年設立の国立医科大学で、医学系の単科教育大学としては世界最大と言われる。こちらが教育機関である一方で、ストックホルムエリアの自治体の公立病院として、カロリンスカ病院(Karolinska Hospital)がある。この二つの組織は協力関係にあり、物理的にも関係性もとても近い関係を維持している。一つの通りを隔てて、片方に大学とインキュベーションセンター、大学の研究棟、もう片方に病院と病院側の研究棟が並ぶ。大学の研究棟と病院の研究棟は、遊歩道で繋がれていて、その二つの組織の強いつながりを示していると言えるだろう。周囲には、医療品、医療機器のメーカのビルが立ち並び、スタートアップのビジネスセンターも徒歩圏内にある。それが、カロリンスカのエコシステムだ。このエコシステムには、とても感銘を受けたが、最近の注目はなんといっても新カロリンスカ病院だ。

新カロリンスカ病院は2001年ごろに計画され、2018年に完成することになっているが、一部がすでに建設事務所から病院側に譲渡され、利用が始まっている。この新病院、構想を聞いた当時から注目していた。予算規模もさることながら、病院運営の思想が斬新なのだ。以前訪問したのは、新病院建設中の15年秋だったから、あまり具体的なことは聞けなかったものの、今回の訪問は多くの点で目から鱗の話がたくさん聞けた。

新カロリンスカ病院で最も注目されるのが「patient first」の思想で、その徹底度には、ほんと感心させられる。例えば、がんなどで治療に来る患者のことを考えてみよう。患者ケアの一環として、家族のケアが柱の一つとなっている。個室(全部屋個室)には、家族用のベッドもデフォルトで設置され、家族がいるのが普通の姿として描かれる。(ガンなどのような)大きな病気の場合は、本人ばかりでなく家族の関与が非常に重要になる。それが患者の回復を支えるのだ、といったような考え方とでも言おうか。治療チームが集まり治療前のブリーフィングが行われるが、そのブリーフィングは、患者と家族を囲んで患者自身の病室で実施される、これも斬新だ。近年ようやくチーム医療が注目されるようになってきている日本の状況の一歩先を行っていることは間違いないだろう。

他にも色々と注目したいことはあるのだけれど、中でも、長期的なパートナーシップに基づいたイノベーションを進めていこうとしている点は、特に興味深い。例えば、建設を請け負ったスコンスカは、構想、デザイン段階にも大きく関わり、入札したのちは、建設と同時に25年のメンテナンス契約を結んでいる(これが条件だった)。つまり、スコンスカは、この枠組みで病院建築を進めることで、巨大病院を建てて終わりという通常の建設業の論理は使えなくなった。たとえ建設費に反映されることになったとしても、長期的な視点で資材を選んだりメンテナンスがしやすいようなデザインにすることが必要になる。このようにサステナビリティを考慮することが、長期的には費用削減につながり、関係性向上が達成できる。

新カロリンスカ大学病院側のスタンスも徹底していて、「製品を売りに来る企業に、もはや関心はない」と明言している。今あるものではなく、また、どこにでも使える汎用的なものではなく、新しい医療のスタンダードを創っていくという気概のあるパートナーを求めるという姿勢だ。今後の医療に必要なものは今の姿ではないという認識があり、未来の医療を形作ろうとする気概、そんな強い意志がカロリンスカ全体に広がっている。

関連各所が一緒に模索しながら創り、その創ったもので場を変え、プロセスを変え、人を変えていく。そしてまた新しい形を共にデザインしていく。まさに、一方的なデザインの押し付けではなく、相互の関係で構築されるデザインを追求する北欧デザインの本質を示しているなぁ、と病院建築を見て考えさせられた。