北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

ヨット好きたちの楽園

f:id:jensens:20170725104638j:plainかつて北欧では、セーリングが一般的な趣味として人気があった。個人や家族やグループで、帆船を保有して、近くの港に停泊させておき、週末や長期休みにセーリングに出かける。そんな文化があったデンマークでは、セーリングをするためのインフラもあれば、(デンマークの)ローカル・ルールも整っている。ヨットをする人じゃない限り普段は見えないから気づかないことも多いだろうけれども、デンマークセーリングカルチャーは成熟していて、一歩懐に入り込むと、非常に心地よい。

 

f:id:jensens:20170725095743j:plain我が家族は、ユトランドの片隅に帆船を保有していて、時間がある時には家族でセーリングに出かける。どちらかというと、家族の中でも女性はあまり好まず、男性が先導してセーリングの旅を企画することが多い。ヴァイキングの船ができて、コロンブスの船ができなかったタッキング(向かい風を受けて船を走らせる)は、あたかも本場のセーリングを体感しているかのようだ(まぁ、スピードは全然違うんだけれども)。スピードを上げて風に向かって進む船は、うまくタッキングさせることで、スピードを落とさずに進行できる。うまく45度の風を受け続け、速度を維持するには、どうしても船の左右への傾斜移動スピードが激しくなるが故に、スピード狂にはたまらない。さらに、一汗かいた後には、呑むのが好きで、語るのが好きであれば、女性でも楽しめる。だから、私も船は好きだ。

f:id:jensens:20170725075551j:plain船の中は、水回りは快適とは言い難く、シャワーだってあるわけではない。でも、気のおけない人たちと、夕方の沈む夕日を見ながらワインを傾けて、鳥の鳴き声を聞いたり、波の音を聞くのは悪くない。遠くの街の光を見ながら、自然の中にいる感覚は、意外と好きだったりする。水回りが悪くったって、何しろデンマークの海岸線のあちこちにある港まで行けば、かなり快適な小屋が整備されている。温水のシャワーに清潔なトイレ。長期のセーリング旅行をしたかったら、無料のランドリーもある。そして、港近くにはだいたい素敵なカフェもあり、かつて船で栄えたデンマークは、小さな港でもおそらく昔栄えていたんだろうと思わせる、趣のある街並みが広がる。

 

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今回の停留地の一つは、中でも楽園と呼びたいぐらい素敵な場所だった。グリル、木陰に備え付けられているテーブル、掃除が行き届いた水洗トイレに、子供用の砂場まである。薪は積み上げられ、テーブルには布がかけてあり埃よけになっている。

その綺麗に整備されたエリアに見られる設備やポスターは、デンマーク語しか見当たらない。そう、これはデンマーク人が自分達が楽しむために少しずつ作り上げてきた文化で、その文化を理解している人たちのための施設なのだ。消費するだけの文化ではなく、皆で作り上げていくための文化。搾取する人がいない場所。だから、文化に属するメンバーには、全てが無料。どこかのセーリングクラブの会員で、わずかな会費を支払い、自分のホームポートを整備してゲストを迎える代わりに、遠出した時のポートは自分の家がわりとなる。

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今、北欧のセーリング人口は急速に減少している。この共同の港とその仕組みの使い方を知らない人たちが増え、かつてコツコツと積み上げられてきた文化、こんな小さな宝石のようなエリアは、少しずつ朽ち果てていくのだろうか。