北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマーク税務局の創造性

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高福祉高負担社会デンマークの中心になっているのが税金。税金を確実に集めることなしにデンマークの社会は成り立たない。だからこそ、確実に正確に納税を果たしてもらうために多くの努力が払われている。その中心となっているのがSKAT(税務局)だ。確実な収税の要となっているのがITシステムで、IT無くして現在のSKATは成り立たない。そして、デンマーク電子政府システムは世界の中でも先端を行っていると言われるが、その中でも尖って先端を行っているのが税務局なんじゃないだろうか。使い勝手を向上させるためペルソナや参加型デザインを駆使し市民を巻き込み、利用者の話を聞き、デザインの改良を加え続け、現在のシンプルかつ、利用促進するデザインになっている。トップ画面はまことにシンプルで市民と企業のログイン画面が中心で悩みようがない。可視化はできないけれども、見えない仕組みの部分も詳細をうまく機能させるためのかなり尖った唸らせる工夫が満載で、税システムやITが大好きなオタクたちがこの組織にはたくさんいるんだろうなと、思わず笑みが漏れてくる。SKATに30年勤めているBoさんの話を聞いていると、もしかしたらガラパゴスなのかもしれないと思わされるのだけれども...(これに関しては後述)。

機会を得てSKATを訪問し、税務関連業務や徴税の電子化にまつわるいくつか興味深い事実を知った。

[ ]デンマーク政府の電子化を一手に引き受けて先導する電子化庁(Digitaliseringsstyrelsen)は、電子的なコミュニケーションやらデータ収集やらを中央集権の一本窓口にしたいと考えているのだが、税務局は実際には、様々なチャネルがあることが効率化を進める鍵だと考えているようだ(話を聞いていて個人的にもそう思った)。今、デンマークでは、eBoksという政府のメールシステムがあり、政府やインフラ系の民間(水道やらガスやら)からの連絡がそのeBoksに一括してメール(というかほとんどの場合添付ファイル)で届くシステムになっているのだが、それって本当に効率的なのか?市民の使い勝手は良いのか?と、税務局(というかBoさん?!)は疑問を投げかけている。

税務局は、実は現在、税務局のサイトへのログインの方法や税務関係のデータを引き出す方法を複数提供している。例えば、公共機関共通のNemID(電子署名)でログインできるばかりでなく, TaskSelv-kodeというNemIDが開発される前に税務局で使われていたセキュアなログイン方法も残っているし、第三者がログインするためのLog in with authorizationという方法もある。それなりに使い分けがされていて、TaskSelv-kodeは、15歳以下、季節労働者NemIDがもらえない人が使っている。第三者用のログインに関しては、障害者とか高齢者などの庇護者が使うのかなと思っていたんだけれども、そればかりでなく、高額収入者で多くの不動産を持っていたり貸し出している人が自分で処理をするのは煩雑なので、弁理士などに任せる時に使うことが多いらしい。話を聞いていて考えたのは、システム統一を皆頑張って推し進めているけれども、それは本当は必要はないのかもしれないということ。色々と話を聞いているとログインの方法が複数あるのは良い方策に思えてくる。一つでは逆に複数のプロセスや例外に対応しなくてはならなくなるのでシステムが煩雑になるからだ。デンマーク政府広告機構(そんな団体ありませんが)が出しているような表向きの話ばかり聞いていると、ワンストップやら共通IDやら夢のような話がよく出てくるけれども、細かく見ていくと、実はローカル対応をきちんとやっていて、それぞれの個別対応もしているからこそ、きちんと動いているんじゃないかと思えてくる。

税務局は、昔から様々な新しい考えを導入する先達で、リードしているからこそ様々な困難にぶち当たり、新しい創造的な解決策を提示してきている。税務局ローカルで作られ、用途に合致しているからこそ利用が進み、しかしながら、他省庁では使われてないシステムも独自で多数保有している。それらはそれなりに機能していて、一見煩雑かもしれないが、よく市民を見てできたシステムであるが故に意外と使えるシステムになっているようなのだ。

頑張れ税務局。