北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマークの歴史入門

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デンマーク国営テレビ局(DR)が放送していた全10回のHistorien om Danmark(デンマークの歴史)が終了した。そして最終回で炎上した。

この番組、いわゆるデンマークの歴史ドキュメンタリなんだが、涙が出るぐらい作りが秀逸だ。DRの資金力と企画力のメディア魂を感じさせられる。こんな高品質の映像が作られるのであれば、受信料を取られても全然オッケー。

 

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この Historien om Danmarkは、デンマークの歴史を石器時代から1970年ごろまで、全10回でざっくり紹介しているものだ。紹介の仕方が半端なく創造性に富んでいて、みている人を惹きつける。ドラマ仕立てでその時代の服装や髪型の人たちが歩き回り、生活している様子が描かれ史実が再現されているので、単なる記録ではない五感に働きかける歴史物語になっている。ところどころに熱い(ちょっとオタクちっくな)研究者の解説が入り、科学分析の模様が入り、過去の写真や映像が挿入され、非常に丁寧にデンマークの歴史の重要シーンが、歴史的データと共に描かれている。そして、さらに秀逸なのが、全編にわたって一人の解説者がタイムトラベルをして噛み砕いで説明してくれることだ。解説者は、ラース・ミケルセン(注)で、現代人として、現代人の視点を持って、例えば石器時代にタイムスリップしたかのようにその場に登場して解説してくれるのだ。毛皮に包まれた青銅器時代の人たちの会合のシーンに突如としてジーンズで現れるラース・ミケルセン。登場人物たちは、ラース・ミケルセンが存在しない人かのように物語を継続させていて、「あぁ、史実を私は今見ているんだ」と再認識させてくれる。

歴史って面白い。ある意味、少し前までは、ヴァイキングは凶暴野蛮な人たちとして描かれていたけれども、最近のデンマークの歴史では、評価が大きく変わっている。確かにヴァイキング達は、村を焼き払ったりしているんだろうけれども、それだけではなく最近は交易を行ない文化を伝えた人たち、そして現地に根付き欧州全般に街の基礎を作った人たちという評価がデンマークでは主流だ。数百年前の歴史の評価すら2-30年で変わっているのだから、近年の評価はさらに複雑だろう。何がデンマークの歴史として大切で取り上げられるべきなのかとか、大きな歴史的イベントは、今のデンマークになんの影響を与えているのかといった意味づけも、定着しているとは言い難い。

そのため最終回が放送されたのち、デンマーク国民党が「正しい歴史が伝えられていないので、DRのホームページから最終回の削除要請する」と宣言し(、そして、メディアで大きく取り上げられた)たのも、納得が行く。近代史で描かれたのは左派の政治的動きのみで、右派( デンマーク国民党も一応右派?)の言及が全くなかったのが、納得いかなかったらしい。

こんなちょっと力入った歴史物語を30年ごとに作るとか意外といいんじゃないだろうか。きっと、その当時の社会を反映した新しい歴史が描かれるから。

www.dr.dk

(注)ラース・ミケルセン:最近では、「Det kommer en dag; きっといい日が待っている」で孤児院の院長をしている。日本でも公開された映画だから知っている人もいるだろうか。結構、かっこいいおじさんだ。