北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマーク医療を評価しない理由

f:id:jensens:20180607041528j:image

デンマーク医療に関しては、特に長い間の懸案だった眼科治療に関しては、グローストロップの医療チームが素晴らしすぎて、プラスのコメントしかできなかった(参照:デンマーク医療を評価する理由 - 北欧生活研究所)。ただ、すべてにわたってデンマークの医療が機能しているかというと、残念ながらそういうわけでもなく、だからこそ、否定的なレポートも多々出ているんだろうと思う。

 少し前の週末、親戚の金婚式でユトランドのオーフス北部に行ったときの話。昼にイベント会場に到着していたかったので、朝起きてバタバタしていた親であったが、5歳の息子が何を思ったか朝8時に階段から落っこちた。自宅でありながら、私の眼科治療の発端ともなったあの因縁の階段である。頭から真っ逆さまに落ちて、ゴンゴンと下まで落ちていった息子の横にいた私は、コトが起こってから数日間、なぜあの時に腕でも足でも掴んで落ちるのを防げなかったのか、そもそもあの危険な立ち位置になぜ立たせたのか、どうしようもない罪悪感にとらわれて、仕事も毎日の生活もかなり集中力を維持できていなかった。

落っこちた息子は、気を失うでもなく泣き叫んだ。今から思うと、気を失わなかったのはとりあえず良い兆候だったのかもしれない。とりあえず落ち着いた息子を前に、気を取り直し、イベント会場に向かい車を走らせ、それなりに元気だけれどもいつもよりは元気のない息子を後部座席に乗せ、現地に到着した。金婚式イベントも楽しくそれなりにすごし、夕方風呂に入れた時に息子は突如、嘔吐し始めた。

そこから怒涛の夜半が始まった。オーフス病院の救急病棟に到着したのが夜の10時。その救急病棟は、まさにカオスの世界だった。土曜日ということもあり、廊下で順番待ちをしている救急患者の1/4は酔っ払い。床に座り込み歌を歌ったり、大声で叫んで、待たされすぎだよーと叫んで、もう帰ろうかなとなんども友人?に聞いていた(帰れ!)。前と斜め向かいに座るのは、ムスリムの女性で、どちらも、どうみてもぐったりしている幼児を抱えて放心状態だ(旦那はどこだ?)。壁に置かれているベットに壁を向いて寝ている壮年の男性は、頭を包帯でぐるぐる巻きにされているが、包帯で巻かれてないちょっと首近くの部分が、どう見てもざっくり切れている(なんでそこは巻かれてないんだ?)。しかも設備がひどすぎる。椅子がボロボロ、壁もボロボロ。職場の大学は、デザインチェアーやソファーで溢れ、2ー3年ごとに家具が変わっていることを考えると、予算配分が誤っているとしか思えない。ここにこそ、体を伸ばして子供を寝かせられ、かつ親ものんびり座れるあのソファーが欲しい。

息子が医師に見えて貰えたのは、夜中すぎの2時。数回病院でも吐いて、親の精神状態はかなりマックスになっていた。結局4時間、あのカオスな空間にいたことになる。そして、夜半にあのおかしな患者たちを一人で対応していたとは思えないほど、エネルギッシュでどっしり構えた信頼感たっぷりの女医に見てもらい、とりあえず入院して一晩様子を見ましょうと言われ、一安心して、言われるがままに子供を抱いて小児病棟に移った。

小児病棟は、まさしく別世界だった。一線を超えたデンマーク医療は私の眼科治療と同じ快適極まりない空間だった。静かでクリーンで安心安全を心の底から感じられる場所。叫んでいる人もいないし、看護師も数人、病棟で業務している。親のベットも子供ベットの横に二つ準備してくれ、疲労困憊の親はすぐに眠りに落ちた。頻繁に看護師が見回りに、(息子は)大丈夫かと来てくれるのだが(何回は気が付いた)、親も病院で守られている感から、もうすっかりお任せ状態になって熟睡していた。

医師の話によると(待ち時間に日本にも問い合わせた)、5歳以下ぐらいであれば、気を失ったりしていない限りそれほど心配はいらないという。吐いただけぐらいであれば、特にCTなどの必要もなく、逆に精密検査はよくないこともあるんだそうだ。翌日はちょっと心配だったけれども、2日目には目に見えてすっかり元気になって、また病院に来たいと息子が言い始めた。なんでまた行きたいのか驚いて聞いたら、病室におもちゃの棚があってレゴでは遊んだんだけれども、まだまだ遊んでないおもちゃがあるんだそうだ。