北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

ドリームチームの創り方

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現在ITUで受け持っている授業の一つでは、1セメスターかけて、学生チームが新規事業や現在抱えている企業の課題をデザインする。授業の半分はセオリーで、残りの半分はその知見を活用した実践だ。学部学生の授業に、コミットしてくれる企業が多々いるのも非常にありがたいが、それだけ面白いアウトプットが何か出てくるかもしれないと期待しているというのもあるんだろう。将来の顧客かもしれないし、社員になるかもしれないし。企業が出してくるのは、実際に企業戦略のコアとなっている課題からちょっと辺境の課題だけれども興味深い新しいアプローチとしてイノベティブな課題もある。このような産学連携は、デンマークではそれほど珍しくない。

 
このような産官学連携プロジェクト型授業では、学生グループは、授業の一環として、企業や団体と共同でプロダクトやサービスのデザインをするわけだ。今回の授業では、企業へのコンサルタントとして4-5名ほどで構成された学生チームが企業との折衝をすることになる。悩ましいのは、学生チームの構成だ。やはりそれなりのアウトプットが出て欲しいからこそ、友達同士でなぁなぁにやって欲しくないし、非常に頭を悩ませる。さて、チームはどう作っていくのが良いんだろうか?
 
デンマークでは、グループワークは、小学校時代から積極的に活用されている。その頃の話を聞くと、先生が無作為にグループを構成するので、フリーライダーがいたり、どうしようもない学生が同じチームになったりすることで、成績が左右されることになるわけで、誰しもがなんらかの嫌な思い出を抱えている。ある人は、「将来仕事をしたっていつも好きな人とできるわけではない、ということを先生に言われて渋々納得した」と言っていたし、別の人は「どうしようもない奴は、皆がチームに入れたがらないから、教師が介入してくる。そんな平等主義はやめるべきだ」と声を荒げて言っていた。
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以前DTU(デンマーク工科大学)で関わっていた180名ほどが参加するアントレプレナーの授業では、米国発のCatmeというグループ構成システムを使っていた。履修者が、オンラインの質問に答えると、システムが、それぞれの特性などを組み合わせて最適なグループを自動構成するというものだ。学生は第三者の思惑が入っているわけではないので文句の言いようがないし、教師は、最適なチームをアルゴリズムが示しているということで安心できる。ちなみに、このアントレプレナの授業では、過去数年このシステムを使っていて、特に不都合はなかったと聞いているし、そのほかにも生徒同士が互いに評価をするためのシステムPeer Gradeのシステム(Peer Grade)も活用されていて、未来の学習環境を見ている気がした。
 
今回のITUの授業では、この授業が例年採用している方法ー1コマかけて自分たちのドリームチームを構成させるという方法をとった。学生は、事前の準備として、van Stammの5 care profileやBelbinの9つのチームの役割などの資料を元に、自己特性判断を行い、自分の特性を自己審査してくる。例えば、自分は、「ファシリテータ」で「オーガナイザ」であるなどだ。その自分が向いている役割を名札代わりにして、うまく1グループでチームワークに必要だと考えられている特性がカバーできるように、他のクラスメイトとマッチングしていく。
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はっきり言って、この授業中にチーム作りをさせる方法は、心理学的な要素が大きく関わり、私は当初、納得いかなかった。どうしても、自分プレゼンが得意な人たちに軍配が上がるからだ。「一緒にプロジェクトをやろう!」と積極的に動けるいわゆるアウトゴーイングなタイプの学生が、早々と類友オトモダチ同士でチームを構成していた。我々教師側が、特性がカバー出来ているか、最適なチームになっているか、もう一度、今のグループと別れて、新しい人と話して!と言っても、結局オトモダチからは離れない。少々消極的な学生たちは、ちょっとあぶれちゃったり、あぶれ者同士で、チームを組むことになったり...。多くのグループが同じような特質の学生で構成されているのを見ると、もっと良い方法があるんじゃないかと考えさせられるわけだ。そんなデンマークの20代前半の学生たちを見ていて、自分の小学生の時の苦しい思い出が甦ったりした。
 
DTUの授業では、さすがに180名もいるので、自動化しないことにはグループ構成だけで何日もかかってしまう。だからこそ、そもそもチーム構築システムCatmeを使うのは、最適な方法であると疑いの余地がなかった。今回は、60名ほどの学生数で、自分の役割を自己判断させそれに基づきチーム構成をするという制約があったとはいえ、バランスの良いチームが作れているようには見えなかった。かなりの部分で自由裁量だったため、どうしても偏っている印象が拭えない。だからこそ、一コマ終了した後、システム導入をしたほうがいいのではないかと、その日一日中考えさせられていた。
 
だが、考えていて、ふと思い直した。実際にスタートアップなどをする時、ドリームチームを作る時に必要なことはなんだろう?それはおそらく、ケミストリーが合うかどうかなんじゃないだろうか。デンマークで成功している「ミッケラー、イヤマのインタビューから感じ取れること」でインタビューした時も、ベストパートナーの重要性(つまり自分が一緒にビジネスをやれる人)が強調されていたし、多くの成功しているスタートアップも気があう仲間とビジネスを始めている。チームに足りない要素をカバーする人材が加わるのは後からでもよく、何よりも重要なのは、運命を共にできるパートナーを探すこと。もしかしたら、やはり学生に任せてもいいのかも...。
 
DTUの授業では、全く知らない人たちがチームを組むことがほとんどだから、お互いを知るまでに時間がかかるし、衝突はプログラム実施中、日常茶飯事とも言えた。ただ、それを乗り越えて、素晴らしいビジネスモデルを提案するグループを見てきた。システムは日々最適化が図られているからこそ、個人では発見されてなくてもポテンシャルが最高のチームが作られているんだろうなと思っている。
 
今後、本能的な第六感で作られるグループ構成がシステムに勝るか....、もう少し様子を見てみたいと思う。
 
Belbinのチームの役割分析に関しては、オンラインでも診断できるようになっていて、自分がチームでどのような役割に向いているのかちょっと試してみても面白いかもしれない。