北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマークの美術館:Moesgaard Museum Vol.2

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Moesgaard Museum(モースゴー美術館)に行ってきた。オーフス(Aarhus)南に位置するモースゴー美術館は、建築も環境も素晴らしく、展示も今までがっかりさせられたことがない。一般的には、デンマークの美術館というと、コペンハーゲンから電車で1時間北にいったところにあるルイジアナ美術館オーフスのAROSが挙げられることが多いが、私の中では、モースゴー美術館がかなり上位に来ている。とても素晴らしい美術館で、感動のあまり、以前にも記録を残したことがある。あまり日本の人が行かないのは、車がない場合のアクセスはあまり良いとは言えず、オーフス駅からバスで15分ぐらいかかるからだろうか。

 

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今回は「RUS:東方のヴァイキング」の展示に惹かれていたこともあり、機会を得て行ってきた。天気も良く、絶好のMoesgaard日和だ。これもまた素晴らしい美術館カフェで自然が広がる景色や子供をあやすヴァイキングの末裔の姿を楽しみながら素敵なランチを味わい、満腹になってから展示に向かった。

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デンマークの美術館:ルイジアナ美術館(Louisiana)

春先のルイジアナ

ルイジアナ美術館 は、デンマーク旅行する人が必ず目指すとも言っていいモダンアートの美術館だ。立地も景観もとてもよく、目の前に透明度の高い海が広がり、庭園が美しい。「世界一の景観」とも言われるのも納得だ。日本人のランドスケープアーキテクトに聞いた話だが、ルイジアナは、海底美術館の元になっているそうだ。そう言われて、初めて、ルイジアナ美術館が海抜下に位置している事を知った。

国際的にも注目される美術館ということもあり、尖った前進的な展示が多く、社会的な問題提起がされる。行くたびに脳内が爆発しグルグルとあらぬことを考えすぎてしまうので、個人的には、気軽に行けない美術館としてブラックリストに入れている。

2022年5月の企画展示はいくつかあるが、60−70年代に米国で活躍したポートレートDIANE ARBUSと都市計画建築家Peter Cook – City Landscapesが、今回も脳内から離れてくれない。

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未来の図書館の姿:オスロ中央図書館(Diechman Bjørvika Library branch)

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オスロ図書館:Deichman Bjørvika Library branch は、2020年に開館した新しいオスロの図書館だ。ビョルビカ(Bjørvika)地区に立地し、オスロ中央駅やオスロ・オペラハウス:Oslo Opera Houseに隣接するロケーションの良い場所にある。他の北欧の新図書館におとらず、ノルウェーオスロ公共図書館は、未来の図書館の香りを漂わせている。

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9歳にワクチン接種をするとき

12歳以下へのワクチン接種が解禁されたという連絡が政府から届いてから数ヵ月。予約待ちなどもなく、当日も特に待たされることもなく、9歳の息子の2回の接種を完了させた。生誕から数年間受けてきた各種予防注射、たとえば乳幼児期の五種混合などでも感じたことだが、子供に対する注射や治療に際しての、精神サポートの充実具合は、当地デンマークでは半端なく。では、何が充実していると感じたのか?

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あなたがもし10歳で親がアル中だったら

私は、小学生の頃、朝日小学生新聞を読んでいて、いつも「忍たま乱太郎」の漫画を楽しみにしていたが、デンマークにも同様の子供向け新聞がある。その名もBørneavisen(børneは子供、Avisenは新聞)。子供向けなので単語が優しく、ちょっと難しい時事単語などは解説もしてくれるので、意外と面白く重宝している。

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デンマークの子供新聞のウェブサイトより

子供新聞の内容は、時事問題や子供が知るべきと思われる社会課題などが特集される。時事問題には、デンマークの子供新聞らしくかなり議論になりそうなトピックなども掲載されるし、トランプ元米国大統領の弾劾なども特集されていたし、コロナ禍で大活躍しているソーレンさん(Søren Brostrøm, Director General at the Danish Health Authority )が、見開きで登場して、「今年のLGBTの顔に選ばれて嬉しく思う」とメッセージを寄せたりしているなど、国際性・社会性たっぷりの記事構成だ。

以前、『デンマークの国語の教材には、アル中の父親や離婚や別の男性を連れてきた母親が描かれる(継承語と多言語多文化教育)』と書いたが、久しぶりに衝撃を感じた記事が、「アルコール:Emilie、飲み過ぎの父親との子供時代(超訳)」だ。社会的に問題になっているから掲載されたんだろうなと思うと、いっそう胃がキリキリする。

記事を見たときには、なんて衝撃的な内容だと驚きを隠しきれなかった。現在21歳のエミリエさんの愛らしい10歳の時の写真が掲載されているが、注釈と記事からは、「いつも父親は仕事の帰りに飲んだくれて帰ってきて、家の掃除も食事の準備も一人でやっていた頃」だとわかる。友達には、知られたくなかったから普通の家に住んでいるふりをしていたそうだ。

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アル中の父との生活

エミリエさんの両親は離婚している。デンマークでは、親が離婚した場合、2人の子供は親の家を一週間交代で移動することになっていて(それはそれでどうかと思うのだが)、なににせよエミリエさんは、同じ状況下にあった。親の2つの家を行き来している子供は、離婚率50%に近いと言われるデンマークでは、それほど珍しいことじゃない。でもさすがに育児放棄やニグレクトは、周囲にも言いにくいだろうことは想像に難くない、

デンマークの子供たちは互いの家を行き来することも多く、エミリエさんは、荒れた家を友人に悟られないように、なるべく自宅に呼ぶことにならないように気を張っていたらしい。

記事は、エミリエさんが、NPOヘルプラインに助けられたということが描かれ、子供電話の番号や、ヘルプラインTUBAの紹介が後半に出てくる。単なる覗き見趣味ではなくて、あなたたちが同じような状況にいるのであれば、連絡する先はこちらだよ、と助けの手を差し伸べている記事だ。

本当に該当者にメッセージが届いているかは正直疑問だ。困っている子供達が、子供新聞にアクセスできるか読んでいるかわからないし、多分広告出すんだったらTikTokだろうな。でもやらないよりはいいかもしれないし、少なくとも、私には届き、もしかしたら結構大きな社会問題なんだと認識することができた。アル中とヤク中は、社会課題とは聞いてはいたが、子供も巻き込んでいることを再認識させられると、かなり気が滅入る。

改めてデンマークの闇に衝撃を受け、相手が子供でも(子供だからかもしれないが)、闇を太陽の元に晒す努力を続けるデンマークに感心する。

そして、にこやかに微笑む今のエミリエさんの姿に少し救われる。

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レジスタンス・ミュージアムに行ってきた

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レジスタンスミュージアム「戦争は白黒で判断できるものではない」

コペンハーゲンでも有名な観光名所、カステレットの横に、「Freedom Museum」がある。デンマークナチスドイツに占領されていた1940-1945年の間の抵抗運動の軌跡を記録している美術館だ。2013年に建物が火事になり焼失したのをきっかけに、新しい建築で生まれ変わった。以前より気になっていたんだけれども、コロナ禍で美術館行きがちょっと面倒だったこともあり、訪問まで至っていなかった。このところ風邪をひいて1週間ぐらい死んだ様な生活をしていたのだが、天気もよく少し外に出てみようと思って、選んだ場所がこの美術館。

美術館本体は地下に造られていて、陸上に出ている建物部分は、筒のような建物の姿だ。蔦が這うような造りになっていて、今後5-10年かけて建物全体を緑の蔦が覆うようになるんだろうと考えると、経過をも楽しむデンマーク建築の粋が羨ましく思える。

入り口でチケットを購入し、中に入ると展示に使う音声ガイド機器を渡された。音声ガイドをQRコードにかざすとガイドがアクティベートされて、展示画像・映像が起動する。音声とガイドは連携していて、映像に沿って音声が聞こえてくる仕組み。映像エリアから離れると音声も聞こえなくなる。システムは最新式で手が込んでいるし、ガイドも単なる状況説明にとどまらない。時にはデンマークお得意のストーリーテリングが始まり、その場でひとり語りの舞台が始まって飽きさせない。レジスタンスたちの声を吹き替えている音声タレントたちもなかなか迫真の演技で、映像を見ながら耳元で語られるとドキドキしてくる。

展示は、地下エリアに広がっていて、音声ガイド(英語・デンマーク語)を全部聞きながら、抵抗運動の歴史を辿ろうとすると、正味4時間コースらしい。準備された資料はとてもリッチな内容だ。非常にシンプルな展示とも言えるのかもしれないけれども、もしカステレットに遊びに行く機会があれば、ざっと見に行って欲しい。おすすめだ。建物を出るときには、戦争のない世界って素晴らしいと改めて思えるから。

 

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未来の図書館の姿:Copenhagen Central Library


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Copenhagen Central Library
(コペンハーゲン市中央図書館)は、1885年までその起源を遡ることができるコペンハーゲン市図書館群の中央図書館である。

1885年に6館2室(読書室)から始まったコペンハーゲンの図書館は、現在では、中央図書館および地域の20館からなる図書館ネットワークで構成されている。1885年当時は、王立図書館と大学図書館が知の聖域として認識されており、一般市民が気軽に書籍を手に取って知識を得る場所は限定されていた。当時、文化の先進地であったパリやベルリンを参考に、地方自治体によって公共図書館が整備されるのが決まったのだそうだ。

しかしながら、現在に比べると、図書館の利用には大いに制約があった。16歳以上であること、貸し出しは1冊のみ、そして月額15øre を支払うこと。 その後、1913年に図書館制度改革が進められ、全ての市民が図書館にアクセスできるようになり、1947年にはさらにサービス対象が拡大され、高齢者や障害者など自分で図書館にアクセスできない人たちのために、図書館側からアプローチするという試みが進められるようになった。

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1957年には、現在の立地に移り、5,610 m2の広さを誇るスカンジナビア初の総合図書館として、デンマークの首都コペンハーゲンの市民のための図書館として機能することになった。吹き抜けの広がる開放的な図書館には、勉強部屋として利用する人もあれば、新聞や雑誌を読みに訪れる人もいたし、記録からは暖を取るために利用したという人もいたことが読み取れる。その頃から、コペンハーゲン中央図書館は、民主主義を体現する場所として、そして文化の伝達のために大きな役割を果たしてきた。

新しい図書館像

この古い歴史を持つ本図書館は、2010年ごろに大きな変革期を迎えることになる。蔵書は増加する一方で利用者の減少は顕著だった。デンマーク国内では、国民の国語力の低下が指摘され、特に若者は本を読まなくなっていることが問題視された。調査結果から、本を読まなくなるきっかけは、4歳までに形づくられる(Early Catastrophe)といわれ、図書館の責任、図書館の役割が改めて問い直される機会が生まれた。 そこから、図書館の変革が始まる。

新しい図書館の役割が模索され、その後、2014-2019年計画が実施され、新図書館像を模索するプロジェクトが次々に実施されていくことになる。プロジェクトでは、インタビューや統計データといった定量定性データに基づき、また、市民など利用者や関係者からの意見が集められ、新時代の図書館戦略が議論されていった。そこから抽出されたのは、図書館は、単に本を蓄積し貸し出す場所という今までの位置付けから離れ、生涯学習の場”Life long learning”であるという位置付けが鍵になるという点だ。つまり、図書館は、埃を被った本が並ぶ場所ではなく、さまざまな情報を得られる場所であり生きるための学習する場所となっていくと定義したのだ。単なる書物を蓄積する場所でなく、余暇に人が活動するための場所と位置付けられたのだ。

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(様々な意見を集めるボードは今も健在だ)

この新しい図書館の定義を基盤に、積極的に文化イベントが開催され、ITカフェが開催され、著者との対話会が実施された。コペンハーゲン図書館の図書館員によると、今、図書館の競合は、Netflixなんだそうだ。

図書館員の新しい役割

変革の時期を経て、図書館員の役割も変遷していく。今までは、専門職として図書館員は図書のことばかりを行なっていたが、今後は、デジタルも基礎能力として備えている必要がある。デジタル部門の人に全てを託すのではなく、全ての人員が、フィジカルとデジタルの両図書館機能を担当することになるという新しい図書館司書の役割が明示化されることになった。2014-2019のプロジェクトにおける様々なアクティビティを受け、デジタル化を進めながら、図書館としての役割を超えて、公的組織の市民との架け橋として、また子供・市民の教育機関として機能することが求められることになった。また、サービスデザインのコンセプトを採用し、図書館(情報センター)の運営を行うことが求められた。中央図書館は、全国に散らばる図書館の中心的存在であり、中央図書館が先陣を切って変化をすることが求めらたのだ。

現在の中央図書館

現在の図書館は、1階は市民センターの受付があるほか、オーディオブックや図書館員のデスクがあり、時にはテーマ展示が並ぶ。2階には子供向けの書籍、3階にはコピー機や無料でパソコンが使えるゾーンがあり、4階には学習エリア、5階には外国語の新聞などが置かれている。

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(図書館内の片隅に控える市民サービスコーナー)

図書館内部のマインドセットの転換

中央図書館内部のマインドセットの転換、DXの推進はトップダウンが大きく影響したといわれている。始まりは、2014年。政府の予算削減、図書館の再定義の圧力を受け、外部から図書館関連の知識はあるが図書館員ではない管理職が移動してきたことによる。 コペンハーゲン市から送られてきた管理職員たちは、図書館員のマインドセットの変換のため、いくつかのプログラムを実施した。ここでは、2つのプログラムを挙げる。

教育プログラム 

例えば、教育プログラムである。年に8-10日の教育プログラムが全ての図書館員に毎年提供されるようになった。図書館員は、地方自治体サービスを提供するための教育を受け、図書館での市民サービス(パスポートや免許証の発行など)を実施するようになった。また、市民へのサービスを学ぶことを目的とし、Tivoli(デンマークの有名なアミューズメントパーク)の専門家のコンサルテーションを図書館員全員が受けたこともある。他にもサービスデザインのプログラムが提供された年もある。このような毎年の試みを通じて、現在の常識になっているサービスマインドや3メートル理論などが、図書館員に認識され根付くようになっている。

*3メートル理論:3 meters theory 自分の3メートル以内のものは全て自分の担当である。

 

物理的スペースの再デザイン

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(デジタルツールや展示、アーティファクトを活用している)

マインドセット転換の為、物理的なスペースを変えることから始めた。場所やエリアの構成を変えることで、図書館員や市民のマインドセットを変え、行動変容を促していった。この方法は、行動経済学系の倫理課題と一致し、倫理的に適切かどうかきちんと考慮される必要がある。 このようなプロセスを経て、現在の図書館は、本を貸出す場所(Transaction)から、関係性を生み出す場(Relation)に変わっていき、そしてそのようなマインドセットを担当者の人たちの心の中にも植えつけていった。図書館員の言葉を借りれば、図書館は”Move from transaction to relations.”である。

 

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(作家との交流や対話会の会場も図書館の中にある)

現在、中央図書館は、年間400万人が訪問し、最も多くの文化イベントが実施される場であり、人の集まる場所として、多くの新しい試みが実施されるリビングラボとして機能している。蔵書は減少し、多くの図書を含めた文化的素材はデジタルでよりわかりやすく使いやすいようにカタログ化された。書籍や検索カードが置かれていたエリアには、もはや所狭しと並べられる書籍はなく、空間を贅沢にとってテーマに沿った図書展示やマテリアル展示がされているのも特徴的だ。物理的な図書館エリアは、読書を促し、仕事を促進させるような環境づくりに努め、また、文化的活動が実施されやすいような空間づくりがされるようになっているのだ。

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