北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

あなたがもし10歳で親がアル中だったら

私は、小学生の頃、朝日小学生新聞を読んでいて、いつも「忍たま乱太郎」の漫画を楽しみにしていたが、デンマークにも同様の子供向け新聞がある。その名もBørneavisen(børneは子供、Avisenは新聞)。子供向けなので単語が優しく、ちょっと難しい時事単語などは解説もしてくれるので、意外と面白く重宝している。

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デンマークの子供新聞のウェブサイトより

子供新聞の内容は、時事問題や子供が知るべきと思われる社会課題などが特集される。時事問題には、デンマークの子供新聞らしくかなり議論になりそうなトピックなども掲載されるし、トランプ元米国大統領の弾劾なども特集されていたし、コロナ禍で大活躍しているソーレンさん(Søren Brostrøm, Director General at the Danish Health Authority )が、見開きで登場して、「今年のLGBTの顔に選ばれて嬉しく思う」とメッセージを寄せたりしているなど、国際性・社会性たっぷりの記事構成だ。

以前、『デンマークの国語の教材には、アル中の父親や離婚や別の男性を連れてきた母親が描かれる(継承語と多言語多文化教育)』と書いたが、久しぶりに衝撃を感じた記事が、「アルコール:Emilie、飲み過ぎの父親との子供時代(超訳)」だ。社会的に問題になっているから掲載されたんだろうなと思うと、いっそう胃がキリキリする。

記事を見たときには、なんて衝撃的な内容だと驚きを隠しきれなかった。現在21歳のエミリエさんの愛らしい10歳の時の写真が掲載されているが、注釈と記事からは、「いつも父親は仕事の帰りに飲んだくれて帰ってきて、家の掃除も食事の準備も一人でやっていた頃」だとわかる。友達には、知られたくなかったから普通の家に住んでいるふりをしていたそうだ。

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アル中の父との生活

エミリエさんの両親は離婚している。デンマークでは、親が離婚した場合、2人の子供は親の家を一週間交代で移動することになっていて(それはそれでどうかと思うのだが)、なににせよエミリエさんは、同じ状況下にあった。親の2つの家を行き来している子供は、離婚率50%に近いと言われるデンマークでは、それほど珍しいことじゃない。でもさすがに育児放棄やニグレクトは、周囲にも言いにくいだろうことは想像に難くない、

デンマークの子供たちは互いの家を行き来することも多く、エミリエさんは、荒れた家を友人に悟られないように、なるべく自宅に呼ぶことにならないように気を張っていたらしい。

記事は、エミリエさんが、NPOヘルプラインに助けられたということが描かれ、子供電話の番号や、ヘルプラインTUBAの紹介が後半に出てくる。単なる覗き見趣味ではなくて、あなたたちが同じような状況にいるのであれば、連絡する先はこちらだよ、と助けの手を差し伸べている記事だ。

本当に該当者にメッセージが届いているかは正直疑問だ。困っている子供達が、子供新聞にアクセスできるか読んでいるかわからないし、多分広告出すんだったらTikTokだろうな。でもやらないよりはいいかもしれないし、少なくとも、私には届き、もしかしたら結構大きな社会問題なんだと認識することができた。アル中とヤク中は、社会課題とは聞いてはいたが、子供も巻き込んでいることを再認識させられると、かなり気が滅入る。

改めてデンマークの闇に衝撃を受け、相手が子供でも(子供だからかもしれないが)、闇を太陽の元に晒す努力を続けるデンマークに感心する。

そして、にこやかに微笑む今のエミリエさんの姿に少し救われる。

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