北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

未来の図書館の姿:オスロ中央図書館(Diechman Bjørvika Library branch)

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オスロ図書館:Deichman Bjørvika Library branch は、2020年に開館した新しいオスロの図書館だ。ビョルビカ(Bjørvika)地区に立地し、オスロ中央駅やオスロ・オペラハウス:Oslo Opera Houseに隣接するロケーションの良い場所にある。他の北欧の新図書館におとらず、ノルウェーオスロ公共図書館は、未来の図書館の香りを漂わせている。

どんな図書館?

45万冊のDeichman書籍コレクションはもちろんのこと、マルチメディアコレクションが整う。さらに、市民の集まる場所として、映画館、音楽ルーム、3Dプリンターやミシンなどが備えてあるメイカーズスペース・メディアワークショップ・ゲームエリア・ラウンジやカフェやレストランを提供している。

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図書館では、レクチャー・各種コース・ディスカッション・読書会・子供のアクティビティが提供されるが、もっと積極的に自主的に図書館を楽しむこともできる。音楽ルームでは、楽器の利用ができる。楽器の使い方ビデオが準備されているので、未経験者も演奏体験できる。子供エリアには、インタラクティブな装置が設置されているし、メディアルームではポットキャストの制作ができる。

Lund HagemとAtelier Oslo architectsが2009年にコンペを勝ち取り建設された図書館は、まさに未来の図書館に思える。建物は、環境に配慮しエネルギー消費を抑えた造りとなっているそうで、なによりもとても開放的で、内装デザインも斬新だ。

訪問者は、のんびり読書を楽しめる場所や仕事に集中できる場所など様々な選択肢から場所を選ぶことができるが、内部を探索しインスピレーションを得ることができるような場所として、様々な活動を促すような場所としてもデザインされている。

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各フロアを貫く吹き抜けの空間は広大で、訪問者をまるで自然の中にいるかのような気分にさせるし、室内と屋外がシームレスに続き、最上階の5回の窓の外にはフィヨルドが広がる。屋内にいながら、まるで広い草原にいるかのような、広いスペースと澄んだ流れるような大気を感じ、大きなガラス窓から差し込む光を楽しむことができる。

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本を読まない図書館

新しい北欧の図書館は、本を読むという知的行為、そしてそこから来る図書館のイメージを明らかに変容させていることを感じる。図書館は、古くより知識の集積所であり、書籍が知識の源の中心であったし、私はそんな古めかしい中世の香り漂わせる図書館が大好きだ。だが、そんな書籍が収集される図書館は、沈黙が求められる静かで埃っぽい空間だったし、音を立てる子供と行くなんて考えられない。

現在の北欧の図書館は、話し声が聞こえ、子供が走り回り、楽しいことが起こることを皆が期待する場所だ。北欧のどの図書館も、”知識は書籍からのみ得られるわけではないんだよ”、”感覚を総動員させて、五感全てを活性化させ体を動かすことで、さまざまな人やものとインタラクションすることで知識が得られるんだよ”、と言っているかのようだ。

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音響ブース。横に陳列してあるビデオを閲覧できるブースだ。

オスロの図書館には、ビデオや音楽CDも置いてあって個別ブースで閲覧することもできる。私は、常に「場」には、3つの空間が必要だと思っている。人にプレゼンするオープンなソト向きの舞台、皆でガヤガヤディスカッションできる場、そして一人で自分に向き合えるコクーンのような場所だ。オスロの図書館には、その全てがある。

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本の横に置いていいのと思わされる小型カーリング台。

ゲームも置いてあるし、そのゲームで遊ぶことができる。どう考えても大声で叫ぶことをアフォードするゲームなのにここに置いてある。ということは、騒いでもいいということだ。

本はたくさんあるが、実際に図書館で本を読んでいる人を見かけることは少ない。大学生らしい人が勉強していたり、携帯を見ていたり、PCで作業したりしているが、図書館の本を利用しているようには見えない。図書館という場ではあるけれども、皆、本を読むのではないことで、好きなように時間をすごしている。

アートの展示場

アートプロジェクトも並行して走っていた。開設時から注目されているのは、100名の著者から原稿を収集し、100年後の2114年に印刷され出版される未来の図書館に向けた本の所蔵庫というものがある。なんと気の長いプロジェクトなのだろうか。

このプロジェクトはメディアで聞いていたが、オスロ図書館のアートは、それだけではなかった。我々が訪問した時期には、日本人のテキスタイルアートやオスロ大学の実験的作品なんかもあった。

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Kiyoshi Yamamotoさんは、この説明によるとベルゲンに住んでいるテキスタイルアーティストだそうだ。吹き抜けにかけられている巨大な作品は、いやがおうにも目を引く。
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オスロ大学の実験は、横にバイト君がいて、丁寧にその作品の背景や意味を教えてくれる。QRコードでHPを読み込んで、予約をすると実験に参加できるのだという。「今日はもう、実験終わりだけど、やりたかったら申し込んでね」と、バイト君に言われたけれども、今日帰国するのでそれはむりだ。
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日本の図書館も面白い場所が次々に生まれていると聞く。とはいえ、多くの図書館は、基本的には静かにすることを求め、それが皆のイメージする日本の図書館だろうと思う。受験生の勉強の場所や退職者の新聞を読む場所になっているのも悪いとはいわない。だが、北欧の図書館を見ていると、もっと活気のある場所になってくれてもいいし、人々の生活の中心的存在になってくれてもいいのではないかと思うのだ。

オスロ中央図書館が開館したときに取材している鎧あさきさんの記事もとてもよかった。