北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

赤いコテージ:Den Røde Cottage - Cottagerne

f:id:jensens:20160907040725j:image『赤のコテージ』という名前のレストランの噂は、数年前より聞いたことがあった。『赤のコテージ:Den Røde Cottage - Cottagerneは、日本のメディアや雑誌にも何度か登場しているし、姉妹店の黄色のコテージには行ったことがあったから、近いうちに行ってみようと思い続けて早数年。突然思い立って食事を食べに行くことになり、オンライン予約は不可だったのだけれども、電話してみたら2人オッケーとのことで、初トライ。

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赤のコテージは、コペンハーゲンから北に向かうクランペンボー(Klampenbrog)という瀟洒なエリアにある。海岸線沿いを北に車を走らせていくと、クランペンボー市エリアにたどり着き、広い公園の中に黄色いコテージがポツンと立っているのが見える。知らなければこれがレストランって気がつかないんじゃないだろうかというぐらい主張せずに立っている古い木造のコテージだ。もう少し車を走らせると海岸線が消え森林に入るのだけれども、その林にひっそりと佇むのが「赤のコテージ」だ。この黄色も赤色も昔からこの地域にある自然塗料を使っていて、黄色・赤色と聞いて多くの人がイメージする色よりは、彩がより繊細で淡い感じの色合いだ。コペンハーゲンを訪問したことのある人ならば、街で使われている淡い色合いの赤や黄色、青を見たことがあるんじゃないかと思う。

ニューノルディックを支えるレストランの一つで、ミシュランの星も長年とっていた(2016年は推奨レストラン)。夕食は3-8皿まで選べるんだけれども、結局お腹と相談で5皿にした(ちょっと多かった...)。日本料理ではそれほど珍しくないが、多くのニューノルディックで採用されている新しい趣向で、赤いコテージでも、季節の素材を使い頻繁にメニューを変える。

9月のメニューは、秋の雰囲気の漂う、ジビエやマッシュルーム、ベリーが多用されている。

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カニとカリフラワー、エストラゴンに砕いた黒パンをかけた一品。

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たらの焼き物に人参、マメを和えた暖かい一品。

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新デニッシュトマト(初めて聞いた)に、ヤギのチーズ。

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ひよこを焼いたものに、とうもろこし、カンタレラ(デンマークのマッシュルームでこの季節の珍味)、酢漬けの小玉ねぎ。

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ブリー(チーズ)に、ソルベア、ナッツ、トリュフの薄いクラッカー(knækbrød)

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レッドカレントに、70%チョコレートと、レッドカレントシャーベット。

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出てくる品どれも、上品でしかも深みがある。下処理や味付けを丁寧にやっている印象だ。この辺りが、「見た目ニューノルディックだけれども、なんちゃってノルディックになってしまっているレストラン」との違いがここに出る。

サービスも非常に繊細で、とても心地いい時間を過ごすことができた。8組ぐらいのゲストに対して、サービスは2人ほど。それでも、程よいタイミングで食事が提供され、水を注いでくれる。

デンマークらしいと思ったのが、小さなベイビーがいたこと。時々泣いていたけれども、なんだかそれを許容する暖かい空間で、ベイビーの泣き声を聞いて、なんだか幸せになった。

ここは、夏の夜も寒い冬の夜も暖かい雰囲気を醸し出すことができる場所なんだろう。コペンハーゲン近郊で北欧の自然に触れることができる貴重な場所だ。

 

デンマークのIoTのポテンシャルが高いと思うのは

f:id:jensens:20160828215108j:image最近複数の人からデンマークのIoTやビックデータ、AIなどのIT事情について質問を受ける。電子政府進展などの影響もあって、北欧は進んでいるんじゃないかと思われるようなんだけれども、インダストリ4.0や日本のIoTの状況、また色々な情報を聞いていると、現段階では、北欧で特に目立った成果が上がっているわけではないように思う。

ただ、ポテンシャルとして北欧で様々なサービス(特に公共系で)が花開く可能性は多いにあるんじゃないかと思うのだ。

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良い公共スペースを構築するための『型』

f:id:jensens:20160828052144j:image最近、日本のニュースで築地市場の移転に伴う混乱や不満について耳にした。築地の移転の話は、以前よりメディアで聞いていたし、移動先となる豊洲の土壌汚染の話なども聞いていたのだが、特にアンテナを立てていたわけではないので、その進展具合や課題がいかに解決に進められているかという話を聞くことがなかった。今回のラジオ番組で知ったのは、利害関係者の合意形成や理解が不十分なのに、もう移転の日程が確定しているということ。そして、推進派と懸念派が対立しているということだ。

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デンマークのヘルスケア・ビックデータの現状

f:id:jensens:20160816183356j:imageデンマークは、個人番号(CPR)が68年から導入され、医療情報データベースも77年に構築され、様々な個人医療保健データが、個人番号に紐付けされて蓄積されている。だから、ビックデータ、IoTの時代におけるデンマークの優位性は確固たるモノだ。そんな話を聞いたことがある人も多いかもしれない。

ただ、実際の所、データベースの互換性が70年代のレガシーシステムから確保されているわけではないし、統合やネットワーク化が想定されていなかった時代から蓄積されているデータを「ビックデータの時代です!」といって即座に活用するということはかなり困難だ。だから、CPRが鍵になり大量の高品質ヘルスケアデータが蓄積されているいう状況であっても、CPRを軸に個人データを抽出し、社会的状況と病気の関係などを分析したり、健康データと知能の関係なんかを割り出すといったようなことが簡単にできるわけでは全くない。デンマークのテク系エッジの効いたデザインコンサルLeapcraftのレポート(Mapping the Healthcare Data Landscape in Denmark)によるとデータエントリーは、初期医療で16箇所、高度医療で15箇所あるというから、それをいかに統合し活用するかは大きなチャレンジであり可能性でもある。

ただ、世界的に見ると、より優位な立場いることは確かだ。リッチなヘルスケア情報が70年だから個人番号を鍵として関連各所で蓄積されていることは事実で、分散し、異なるデータセットの枠組みである状態であったとしても、それは宝の山でありダイヤの原石だと言えるのではないかと思う。

現在の私が関わる研究プロジェクトの一つに、EU資金を獲得して始められたREACHプロジェクトがある。このREACH2020は、4カ国17組織(大学、医療保健関連機関、企業)があつまる700万ユーロのEUプロジェクトだ。このプロジェクトは、高齢者の健康維持・個人にテーラーメイドされたヘルスケアを提供するためのサービスシステムの開発を目的とするもので、モチベーション技術やセンサーを活用して、治療やケア環境を個人ニーズに合わせる方法が模索されている。その鍵となるのは各種センサーなどIoT(Internet of Things)だ。いわゆる一般的にIT機器として認知されるようなロボットのようなもではなく、ネットワークに繋がるセンサー内蔵型の家具やムードセンサー、バイタルセンサー、活動測定センサーなどの環境に溶け込み、リアルタイムでデータを収集し、結果的にさりげなく健康維持や回復を支援し、運動を促すことに貢献することができる可能性を秘めたインターネットに接続されネットワークされたモノ、IoTである。

仮にこのREACHプロジェクトで収集される個人のバイタルデータや行動データなどを、個人の病歴や健康履歴とリアルタイムでクロス分析することができれば、より長期的な視点からの望ましい治療方法やリハビリ方法、健康促進手段につながるんじゃないだろうか。長年のヘルスケアデータの蓄積があるという意味で、このような近未来の(予防)医療が国家規模で実現に近い場所にいるのがデンマークなのではないかと思う。

ちなみに、IoTは様々な分野で注目されているが、よりポテンシャルが高いと思われている分野の一つとして、医療保健健康分野がある。デンマークのITを考える上で、またIoT、ビックデータを考える上で、この分野はかなり面白い試みがされている。

 

uberが成立しない国

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7月初旬、uber運転手が40項目近く法に抵触しているとの判決がコペンハーゲン裁判所で下された。もちろんタクシーの運転手が2014年の導入以来声高に廃止を唱えていたんだけれども、一つ決着がつきかけているようだ。

デンマークはタクシーの運転手はライセンス制。無駄にタクシーを増やさないように、またクオリティを保つように労働組合が頑張っている。比較的快適な車内に、高額のタクシー運賃。uberを使ってみたけれど、運転手は比較的怪しいし、料金もそこまで変わらない。意図的なものを感じるけれど、uber車内でのレイプなどの報道も比較的よく見る。

一方、発祥の地米国で使ってみたuberは、かなり快適だった。価格は1/3、車内は清潔で、運転手もとても礼儀正しい。ピアレヴューがかなり功を奏しているようで。

一般的タクシーとのクオリティの差が、uberの浸透に影響を与えているとみた。米国のタクシー、汚いし臭いし、シート破れているし…。でもそんな状態ではuberの許可は下りないんだろう。

新しいアイディアも社会状況によって受容度合いが大きく変わる。

働き方、生き方

f:id:jensens:20160729193453j:image皆、違うと知ってる。どうにかしなくちゃ、変えなくっちゃって思っている。それなのに、変わらないのが、日本の「働き方」だ。日本の労働環境は「一億総ブラック」と、昨日会った方が言い、言い得て妙だと変なところに感心してしまう。

 

今日も一日中、働き方について考えていた。

 

デンマーク人たちは、自分の理想とする人生を送るために、仕事を変える。仕事に満足している人が多いのは、好きな仕事を追い求め続けることを止めずに、その時の最善のチョイスを得ていると自負できているからだろう。何がしたいのか最初からわかっている人はいないし、1-2ヶ月の就活で、一生の仕事が見つかると考えているのであれば、それは虫が良すぎる。知り合いは夏休み1ヶ月欲しいからと言って教師を目指し、違う職についた後も諦めずに今は転職して高校の先生になっている。公務員だったけれど民間で働き、今エストニアで博士をしている人もいる。

 

その時の環境や目的意識の変化によって、軌道修正をしつつ、フレキシブルに仕事を変える。自分がどう生きたいか、そんな視点で仕事を真剣に考えているからなんだろう。

 

デンマークでの口頭試問の受け方

f:id:jensens:20160625050814j:imageデンマークを始めとした北欧の大学では、学部レベルから試験で口頭試問がある。授業の最終評価方法は多種多様で、レポート提出や選択肢式テスト、筆記テストばかりでなく、口頭試問や、持ち帰り試験(与えられた課題を指定の時間ないに解き提出する。24時間とか72時間とか...)などがあったりする。

私が今季担当していた「新規事業コンセプト開発」の授業では、口頭試問が最終試験として予定されていた。口頭試問といっても形は様々で、私が担当したものは、1ヶ月前に提出したグループレポートに基づき、個人で30分、口頭試問を受けるというものだ。30分といっても、内訳は、5分の発表、15分の討議、そして10分の2人の評価者同士での考査であるから、実質20分の発表と言っていいだろう。

日本の面接のように圧迫面接があるわけではない。また、気を逸らすものがあえて用意されているわけではない。自分たちが執筆したレポートの中で、自分の好きなトピックを選んで、5分間話すだけだ。ただ...このような口頭試問は、デンマークの学生はそれなりに慣れているのだろうが、日本の交換留学生にとってはかなり厳しい試験なのではないかと思う。不文律が多すぎるのだ。

第一に、ルールが明文化されていない。もちろん内訳や受け方は、事前に解説されることが多いが、どの程度準備していくべきか、最初の5分発表の内容をどのように選択したらいいのか、「習うより慣れろ」的な部分が多い。今回、私が担当していた授業には、交換留学生が数人いたのだが、彼らの評価は非常に低かった。担当試験官によると、「交換留学生はただ質問されるのを待っていた」んだそうだ。きちんと事前にデンマークの口頭試問について解説していたとは思えない。

第二に、センサーと呼ばれる外部評価者はかなりの曲者であることが(経験値でも)多い。センサーは、授業について理解している人ばかりではなく、もちろん個々の学生に関する理解にも限界がある。そのような学生の数ヶ月間の学習評価を、レポートと5分プラス15分のインタラクションで実施するわけだ。もちろん、この2人体制の評価は、担当教官が特定の学生を贔屓したり、逆に個人的な理由で低評価することを避けることはできるけれども、発表が苦手な人や緊張してしまいがちな学生にも、通常のレポートや授業態度やプロジェクトの関わりなどで情状酌量できず、予想外の低評価にならざるを得ない場合がある。

今回私が試験を担当したイダやニックはまさにそのような学生だった。いつも授業にも積極的に参画してグループを引っ張っていたイダと、授業には参加せずグループワークも理由をつけてはサボりグループのお荷物だったニックが同じ評価になってしまったのは、今思い返しても胃が痛くなる。イダは、緊張気味だった上に、センサーの専門分野に入り込んで墓穴を掘ってしまった一方で、ニックは、あえて言わせて貰えば、おしゃべりが上手だった。

デンマーク学術界の不文律で、「センサーの意見には逆らうな」というものがあるが、今回ばかりは、センサーを説得することかなわず、無念で仕方ない。センサーのイダの評価を一段上げることができたのは、不幸中の幸いだろうか。「かろうじてパス」の評価を下そうとしたセンサーに、どう対抗できたのだろうか、数日たった今でも後悔とぐるぐる考察が頭をよぎる。

そんな状況にならないように、(もしくは巻き返しを狙い「ニック」作戦でいく方も)日本人の学生でデンマークで口頭試問に臨む方は、是非ご一報ください。事前に色々とビシバシアドバイスはできますよ。