北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

外国人へのデンマーク語教育

日本で友人に会うと、デンマークでは何語が話されているんだっけ?と聞かれることが多い。一度、東京の大学でプレゼンをしたことがあったのだけれど、何語を話しているのでしょう?という私の質問に、「ドイツ語でしたっけ?」「オランダ語ですか?」と一見合っているような、しかし完全に誤った反応をもらった。ちなみに、デンマークではデンマーク語が話されています。

そのデンマーク語の国デンマークでは、移民(日本人も永住希望者は「移民」のカテゴリーに入るのだろう)が、永住ビザをもらうための条件がいくつかあり、その中にデンマーク語テストに合格しなくてはならないという項目がある(これによると、デンマーク人と結婚していても、数年毎に居住ヴィザの更新が必要になる)。この「移民」と「デンマーク語」に関連して興味深い記事が6月21日のデンマーク唯一の英語新聞「コペンハーゲン・ポスト」に掲載されていた。面白いのは、通常コメントは2−3件だけなのだけれど、この記事には私が確認した時点で23のコメントが寄せられている点だ。

デンマーク語語学学校は、移民の背景を持つ女性へのデンマーク語教育に失敗しており、統合プロセス(Integration process)に課題を残している。

ロックウール・ファンデーション(Rockwool Foundation)の調査によると、デンマーク語語学学校に通う5分の1の女性が、講座を終了できず最終試験に合格できていないことが明らかになった。ロックウール・ファンデーションの研究員マリ・ルイーズ・シュルツ・ニールセンは、学業を修了できない女性たちの能力は「非常に懸念される」と述べている。「それだけ多くの女性がデンマーク社会で主体的な役割を果たせないことは、移民の統合化において遺憾なことです」としている。

シンクタンクCEPOSの前所長ゲート・ライア・クリステンセンは、日刊紙ベアリンスケのインタビューに答え次のように述べている。「デンマークには孤立した多くの移民女性がおり、社会が金銭的に多くの負担を負っている。同時に、母親がデンマーク語能力の欠如のためにデンマーク社会に統合できないのであれば、移民次世代に影響が見られることになるだろう。」

原文はこちらImmigrant women run into language barrier

デンマークに住む外国人は、語学学校に3年間は無料で通学できる。日本人的感覚から言うと、3年間でデンマーク語試験に合格することは十分可能だ。デンマークに住み始めた日本人ならば皆当初違和感を覚えるように、デンマークに移住(移民)してきた者は、皆「移民」というカテゴリーにくくられるので、当然日本人も「移民」であり、様々な「移民」への圧力を直接的間接的に受けることになる。語学試験に合格しなくてはならないというのもその一つ。無料で3年間語学学習ができるのだから、デンマーク政府は、寛大だというべきなのだろうけれど、実際には仕事をしながらデンマーク語語学学校に一回4時間週2-3日通い、テスト勉強をするのは、時に大きな肉体的精神的負担となる。

記事の中で「移民女性」として暗喩されているのは、おそらくムスリムの女性であり、シュルツ・ニールセン氏も、クリステンセン氏も同様に、家にいることを基本とし子育てを旨とするムスリムの女性を指していると思われる。家にいて労働市場に(意図的に)出ずに社会保障を受ける移民が増えるのであれば、デンマーク社会は成り立たない。コペンハーゲンポストの記事で興味深い点は、感情的なコメントを残している人たちは、ムスリムの女性とは考えにくく、労働市場デンマーク人と同等もしくは世界レベルの仕事量をこなし、高税を収めているものもいるだろう。対象ではない移民グループにメッセージが届き、その人たちの感情を逆なでしているのだ。デンマーク語学習と語学試験合格への圧力は、(私を含め)全移民グループに容赦なくのしかかっている。移民を仕事・学歴・技能などでカテゴリー分けせずに、純朴にも「分け隔て」なく同様の条件を課すのは、いくら「平等主義」でもデンマーク移民政策の失策ではないかと思う。