北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマーク・グルメ

jensens2005-08-29コペンハーゲンのレストランでも数日前にちょっと言及してみたけれど、デンマーク・グルメ、スカンジナビア・グルメなる言葉が最近聞かれるようになってきて、スカンジナビアには、いかにすばらしい料理があるか一家言ある人が最近増えてきた今日この頃。でも、ちょっと待てよ、スカンジナビア・グルメって何?スカンジナビアにグルメって存在するの?
スカンジナビアに住んでいる私にとって、正直、デンマークは食に関しては砂漠地帯。10年前までは、レストランで食事をするのも一部の人たちだけ、食に対してこだわりも少なく、情熱も低かったと聞く。そのころは、レストランもコテコテの高級フレンチコース料理がメインで、その他ストリートフードがあるのみ。私がこちらに住み始めた当初(5年前)は状況が変わってきたとはいえ、パスタを頼むと、アルデンテどころか茹ですぎて固まっているパスタなんてのがサーブされても不思議ではなかった。それで、デンマーク料金なんだもの。日常食といえば、変わらず、朝はパンにチーズとハム。昼は、ライ麦パンの上に、酢漬けのニシンが乗ったオープン・サンドイッチ。夕方は、肉とソースをオーブンに入れて作った肉料理とゆがいたポテト。もう少しアレンジできるでしょう…?!

しかしながら、一度情熱に取り付かれると、皆がそちらの方向を向き始めるのもデンマークの特徴。「デザイン」しかり、「建築」しかり、「社会保障」しかり。どれもデンマークを代表する特徴だけれど、60年代に勃興したトレンドで、その前の砂漠状態は、知る人ぞ知る。もちろん本来スカンジナビアは気候的・地理的に厳しいエリアも多く(例えば、デンマークの有名な小説には、西ユランドの気候が厳しいエリアに生きる漁師の苦悩が描かれていたりする)、マズローの欲求(要求)階層ではないけれど、まずは生きるための環境が整う(60年代?)が必要であったことは想像に難くない。そこからしばらく経ち、経済的にも好景気を迎え(2000年代前半)、毎日の生活に豪奢な贅沢品が満ち溢れ始め、ようやく食に目が行き始めた食文化発展途上国、それがデンマークなのである。国民の意識が食に対して高まりだしているのは、毎日の生活でも感じる。そこそこおいしいレストランに出会う確立も増えてきたし、テイク・アウトやデリなども増えてきた。テレビでもイギリスやアメリカの影響を多分に受けた料理番組が放映されるようになり、料理本も本屋の店先に山済みだ。フランス有名レストランガイドの☆を取得したレストランも出現し、デンマークは食の先端地なんて言葉も聞かれるようになってきた。

だからと言って、全てが急にグルメに変わるわけではないんですよ。例えば、フランスやイタリア(そして日本)の食に対する熱情や歴史、豊かな素材はデンマークがいかに苦労しても手に入らないし比較できないと思う。ただでさえ、野菜は枯れているし、食材の種類は少ないし、手に入らないものも多い。10年前には店先に並ぶことが少なかったトマトも一年を通して並んでいるけれど、全く甘みが無い。

では、スカンジナビアにグルメは存在しないか?そんなことは無いんじゃない、ということがようやく最近見えてきた。確かにトマトは不味いが、デンマークで育つ野菜類のおいしいこと。ポテト、デンマークの根菜、グリンピース、イチゴ類。近郊で取れるタラや魚卵。ストレスフリーで育てられたう牛や豚。食材的には数えるほどしかないけれど、それぞれの季節に土地にできる野菜があるし、肉や魚、海産物も馬鹿にできない。旧来から地元で取れ、食されている素材は非常においしいのだ。今後、日本のバブル期に育った人たちやその親を持った世代のように、好景気に出現した料理をたしなんで味の肥えた舌を一度持ったデンマーク人は、昔の生活には戻れないと思う。かといって、伝統と乖離しすぎた食文化や高級食文化は、経済危機も手伝って今後しばらくは伸びるとは思われない。だからこそ、これからは、シンプルだけれど素材が生きる料理、伝統に根付いた、でも新しい解釈がされるそんな料理がスカンジナビアのこれからの食文化を引っ張っていくに違いないと思うのである。土地に根付き今の時代に沿ったデンマークスローフードとして、ぜひ、シンプルでも舌の肥えた人をうならせるだけの食を提供できる国になり、食の発展途上国を脱してもらいたいと切に願うものである。