北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

日本デザイン学会参加(と考察)

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2017年度デザイン学会秋季大会のテーマ討論会に上平先生(発表資料←相変わらず見易い素晴らしい資料)らと招聘されて、函館に行ってきた。企画テーマ「共創・当事者デザイン」、当事者と共にデザインすることの意味。大会委員長岡本先生とCo Design関連でご一緒する機会が多々あり、今回の招聘に相成った。函館は初めての訪問地、そして好物海産物エリアということもあり、自分としてもかなり盛り上がっていたけれども、いやはや久しぶりの日本の学会自体がとても楽しかった。

 今回の会議ではデザイン研究関係者だけでなく、異なる分野で「デザイン」を実践されている方々も集っていた。自分が興味を持っている「」「社会イノベーション」「伝統工芸」のキーワードもあちこちで出てきて、正直嬉しかったし、日本語で議論できることが嬉しかった。

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2・3日目には函館西区を皆でフィールドワークするという街づくりのワークショップがあって、内省とインタラクションを通して、単に一人で散策するだけでは得られない街を理解することができたと思っている。秀逸なのが大人の女子・男子メンバーだ。皆さん、街ゆくローカル人に話しかけるのが上手で、人懐こい彼らの魅力に私自身がメロメロだった。良い同士は重要ですね。

今回知った函館を中心とした日本の様々な取り組みで、特に面白く気になったことを備忘録として残しておきたい。

 野菜の生産者と消費者を繋ぐデザインを実践されているすず辰さん(FB/お店HP)。すず辰は、京大農学部出身の鈴木さんが2013年に開店させた八百屋さんだが、単なる八百屋さんではない。美味しいものを日本全国から集め、地元の野菜も選りすぐりを販売している。加工食品も一つ一つに物語があって店舗に行くと、じっくり向かい合いたくなってくる。函館こども食堂を運営していたり、野菜をキーワードに地域をよくしようとするアイディアが次から次へと溢れ出てくる地域のイノベータだ。やはり良い企画の裏には、人間的魅力が溢れるキーパーソンがいらっしゃる。

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函館で「金持ちばかりでなく皆にとって身近なセーリング文化」を根付かせようとしている伊藤さん。今まで、プレジャーボートを販売してきたけれども今までその環境整備には目を向けてなかったということで、エリアの全体最適をデザインしようとしている地域イノベータだ。プレジャーボートの文化が日本にはもともとなかったから、海を生活の糧にしている漁業関係者との軋轢を生じさせてしまったことと言いつつも、今は、当事者たちが共に構築し、維持し、発展させていくマリン経営を目指していらっしゃるマリンプラザ伊藤を経営。彼の展開する持論・考え方が、日本の悪い癖「お上についていきます」的な考えとは一線を画し、デンマークの民主主義的思想にとても近いことに気づいた。話を聞いているうちに、日本に住んでいながらこのような考え方を持つようになった経緯が気になってきた(<- 聞けてないけど)。

地方再生に関しても頑張っている都市、自治体がたくさんある。こんな話をしているとやはり「デザインができること」ってたくさんあるんじゃないかと改めて嬉しくなる。

例えば、「静岡の暮らし方会議」は、静岡県綾部市が、暮らしを良くするための様々な活動を当事者を巻き込んで進めている。名産品の黒谷和紙を使った試みは、和紙好きとしては言及しないわけにいかないだろう。和紙を使った照明器具を作ってみるワークショップを企画しているみたいだが、これは産業としても考えていい方向性なんじゃないだろうか。和紙風の照明器具は、皆さんご存知スウェーデンIKEAなどでもとても人気(素材が安い?)なんだけれども、日本の技術を使って素敵なヒュッゲ生活にぴったりの製品を作れるんじゃないかな。現地の人が現地の魅力に気がつかないことは、多くの人が指摘していることだけれども、ここでもまた!というのが正直な感想。ぜひ外の視点を取り入れて産業活性化、工芸・技能継承に役立ててほしいものだ。 

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 八戸で、「胃袋で考えて動くデザイン教育の試み」を実施する横溝先生。デザインを使って八戸で地域創生を考えている先生だ(と理解した)。海産資源溢れる八戸で、八戸ハマリレーションなどと協力し、地魚を使った料理、例えばブイヤベースを作り、その現地食材を使った新しい料理をデザインする試みをされている。発表で興味深いと思ったことは、最近の自分のテーマ、体感と系統立てた学習の両軸デザインがここでも見られていること。デザインしようとしても体感として持ち合わせてない場合は言葉するのが困難だ。そのために横溝先生が考えた次のステップは、食べて体感しその体験を言語化するというプロセス。経験に基づくデザインは、より具体的で人に訴えるメッセージになる。同じ流れで始まったもちよるプロジェクトは、山の中から素材を集めて料理を作りキャンプする体感のデザイン教育だ。

今回嬉しいと思いながら聞いていたことの一つに、日本のあちこちで地方大学と地元の自治体と市民の交流が進んでいることがある。おそらく、成功事例が各地で報告されてきていることが要因となって、大学から自治体に働きかけたり、自治体が大学に課題を持ち込んだりし始めているんだろう。人が足りない、産業が足りない、など、理由はなんでもいいが、足りないからこそ危機感が共有され、現状認識を進めることでお互いが自分の専門性を持ち寄って課題解決に取り組む基盤ができていくんだろうと思う。

<そして、まとめ>

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(イカ🦑うまい)

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(こんな和洋折衷がたくさん)

函館は、歴史ある小さな港町である。イカの加工などをしている小さな工場や、一階が日本家屋で二階部分が欧風家屋という奇天烈な家が多数残され、一部は住居に、一部は店舗やレストランカフェになっている。産業としては、イカや造船が主要と聞いた。造船などの規模は縮小しているんだろうけれども、話を聞いてみると顧客である船主たちは海外の企業であったり小粒ながらも産業を生み出し、世界に羽ばたくボーングローバル企業だ。

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五稜郭は庭園の管理も行き届き、景色としても圧巻で、箱館奉行所の再建築も美しい。だがしかし...言ってしまおう。正直がっかりだった。箱としては立派でも、せっかく巨額が投じられて復元した結果のあのプレゼンは最悪だ...。美しい日本建築になっている現実味も体感もない使われ方に心底がっかりだった。あれだけの日本の伝統スキルを保有する大工達と予算を投じるのであれば、もっと活用方法や継承方法を真剣に考えてほしい。ちょっとしたアイディアもあるので、なんかやらしてください

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あともう一つ。私は函館は初めてで昔との比較ができるわけではないが、2-30年前を知っている人、10年前を知っている人の話を聞いているうちに、地方創生の難しさを感じざるを得なかった。2-3日で考えた程度で言うのも失礼極まりないとは理解しているものの...メンテナンスが行き届いていない道路や雑草が生え放題の前庭、荒廃具合を強化するだけの散乱する放置自転車や崩れた屋根瓦。

いいオリジナル素材と熱意ある人がいるこの街だからこそ、良い枠組みや繋ぐ仕組みができれば、いい方向に向かっていく可能性は無限大だ。これからの変革に期待!なんて、未来に思いを馳せていたら...函館市長が西地区(古い町並みや歴史物語溢れる地区)でビバリーヒルズ構想(なんじゃそりゃ)を提唱し実施が秒読み?と聞いて、さらに唖然とした。