北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

デンマークの離婚事情

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年末に衝撃的な出来事があった。20年近く知っている素敵なデンマーク人夫婦が、知らないうちに別居を始めていた。とても仲良く見えていた夫婦でティーンの子供が2人いる。喧嘩はするけれども、喧嘩するほど仲が良いと言われるような典型的な家族に思えていた。その家族とは、一緒に夕飯を食べたり旅行に行ったりして、楽しい時間の思い出ばかりだ。最近どう?と日常会話で聞いた時に、ちょっとまだ大変だから、と言われた。不可解な表情をしたら、聞いてないの?と驚いた顔をして、別居しているという話をポツリとしてくれた。その後、偶然のタイミングなのか、デンマークでよく言われるクリスマス離婚の影響なのか、2組の夫婦の別居の話を聞いた。その後、年始に会った在デンマークの日本の友人との会話でも複数の知り合いの離婚話を聞いた。自分のことではなくても、知り合いの仲の良い姿を折に触れ見ていたこともあり、衝撃は大きかった。

 デンマークでは、2組に1つの結婚が離婚に終わると言われる。だから、周囲に離婚している人が多くいても不思議ではない。離婚が多いのは、結婚して1ー2年と結婚して7年だ(デンマーク統計局発表資料)。私の周りには、後者の子供が思春期を迎えている年代の知り合いが多く、この数年離婚の話を普通に聞くようになった。同年代ではまだ結婚が継続している人が多いが、一回り上の世代は、肌感覚では、結婚が継続している夫婦の方が明らかに少ない。

 デンマークでは、長い間、6ヶ月もしくは12ヶ月の別居を経て、離婚を申請することができた。それが、2013年6月1日から、別居を経ることなく離婚申請ができるようになった。2019年4月には、子供が18歳未満の場合は、3ヶ月の別居期間を経ること、また離婚後の協力に関するコースの受講が義務付けられた。1ヶ月ほど前、この新政策は現状を理解していないという不満が多くの関係各所から出て巷で議論が巻き起こっていた。”政治家は3ヶ月の別居期間を経ることで離婚をとどまる人が増えることを期待したようだが、それはバカな考えだ”と多くの関係者が考えた。離婚をしようと考える人は、一昼夜で決心するわけではなく、積み重ねた不満や考えのすえ、離婚プロセスに踏み切る。そのため、3ヶ月の別居期間は、関係を修復させる効果はほとんどなく、逆に子供の立ち位置を宙ぶらりんにし(離婚に踏み切るわけではないので新しい生活を始められない。現実に直面しにくいなど)、夫婦・親子ともにストレスや不安、関係の悪化、決断の先延ばしを招くだけだ、というのが彼らの主張だ。
 
離婚に関するオンラインコースの受講が義務付けられたということで、この話に興味を持ったのだが、調べていくうちに社会は思わぬ方向に動いていたことを知った。ちなみに、このオンラインコースは、コペンハーゲン大学の教授Gert Marin Haldと学生のSørens Sanderが考案。コントロール実験の結果、受講しなかった人たちに比べ、受講した人は、統計的優位で、不安や情緒不安定、病欠などの点で良い結果がでた。しかしながら、注意すべきは、現状では、別居により離婚を取りやめるケースが多くみられたというわけではない、と思われる点だろう。単に離婚数に記録されないだけで、別居数に移動しただけだ。
 
デンマーク統計局が公表する離婚率は、2014年に54.39%を記録し、最新のデータ2018年は46.51%、2019年は35.38%と、明らかな減少傾向が見られる。統計が取られている初期、1987年、1989年に一度離婚件数が多くなっており、解答は見つけられていないが、おそらく、離婚手続きが簡単になったことと関係しているんじゃないかと思われる。そして、別居を経ることなく離婚申請ができるようになった2013年に一度急上昇し、そして減少傾向が見られるようになり、別居を経ることが半強制されるようになった2019年には前年度比70%ほどで(離婚率は)減少している。ちなみに、興味深いことに結婚数は上昇の傾向なんだそうだ。
 

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離婚率を示すグラフ(デンマーク統計局)
このことに関して、知り合いの家族問題の弁護士の方が言っていたことがとても興味深い。離婚率は、他国と比べてもデンマークでは非常に高いし、確かにそれは事実だ。でも、これからは、離婚率は下がるかもしれない。
 
デンマーク現代社会の風潮は、私たちの世代(いわゆる団塊世代に相当:5−70代)が引っ張ってきた。私たちはデンマークの成長期に子供時代を過ごし、平和と自由を満喫してきた。私たちは、満足することなく、欲しいものを欲しいと声高に叫び、なんでも手に入る時代に生きた。そしてそれを当然の権利と考え、自由に振る舞ってきた。それが全て悪いとは言わないけれども、ある意味欲ぶかい世代なのかもしれない。私たちの離婚の姿を見てきたり、離婚家族の中で子供時代を過ごしてきた次の世代は同じ考え方をしていないし、同じマインドで人生や家族を考えていない。私たちの世代は、極端な時代に生きている。私たちは、離婚は悪いことではない、自分の性的関心を解放したいと考えてそれが良いことだと思っている。でも、次の世代は違うみたいだし、その兆候はすでに私に相談に来る人たちにも、統計にもみえている。」
 
保守的になっているのかな、という私の質問に、そうとも言えるかもしれないわね、と弱々しく笑った。その孫の世代は、また私たちのような消費マインドを持つのかもしれないけれども。と付け加えることも忘れなかった。