北欧生活研究所

北欧在住13年。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

認知症のためのデザイン会議

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先日2日間に渡り開催されていたDementia lab 2018に参加してきた。独Dortmundでの認知症のためのデザイン:Dementia Labに続いて2018年は英国ニューキャッスルで実施された「認知症のためのデザイン」会議は、今後の高齢化社会で一般的になるだろう話題の先取りだ。参加者は、欧州8割、その他米国・南米・私(デンマークに住んでるが日本の話題)で、大半が欧州の事例だった。私は、共同研究で実施している大牟田市の事例をCoDesignのまちづくりの観点から話ししてきたのだが、大半の発表トピックは、コミュニティ支援やまちづくりの視点というより、認知症者のための製品、また、認知症者とともに創るデザイン事例が中心だった。中でも気になった点、記憶に残った点をいくつか挙げたいと思う。

アートや音楽、感覚の力

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認知症を持つシニアを巻き込んだアートプロジェクトを実施しているという発表が非常に多かった。主催者は大学であったり、アーティストであったりするのだけれども、シニアセンターなどを巻き込んで、結構地域で根付いた活動をしているものも多い。社会貢献活動にアートとデザインが組み込まれたようなアクティビティだ。パートナーが認知症を患う人を連れてきて一緒にアートワークに関わるという方策やグループで複数人のシニアとインタラクションをする方法までいろいろだ。思うがままに様々な素材を使わせることもあるし、規定の模型に色をつけさせるとかの簡単な体験を中心にさせるものもある。足跡を残すという一環として、学生が聞き取りを進めて、冊子を作るものもあった。やっていることは、社会との接点を持つ、諦めないで編んでも試してもらうということで意味があることだと思うし、認知能力が低下してきているといっても視覚や触覚などの感覚を使ったアクティビティは、リハビリや現状の維持などに有益だと言われているらしく、それだけのリソースがあって、実施できるのは素晴らしい。ある意味、認知症の方々とできることを考えると、アートや、音楽や、触角などの感覚の力が何よりも力を発揮する。うがっていえば、そこに帰結してしまうのだろうか。

ドラゴンレーダーのようなもの

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ドラゴンボールならぬ自宅の方向を指し示してくれるコンパス。このコンパスはとてもシンプルでわかりやすい。機能は自宅の方角を指し示すだけ!オランダのTU/eで教鞭をとるRens Brankaertの発表は、多くの先進的なコンセプトや暖かいIT(Warm Technology)の活用でとても興味深かった。博士課程の研究で認知症シニアとのリビングラボを実施していたとのことで、いま自分がやっていることととても近くて、いまの研究自体もそうだけれども、「認知症のためのベストデザインって何だろう」を模索するその手法や過去研究に注目したい。

https://www.cursor.tue.nl/en/news/2016/maart/designing-for-dementia/#top

ボランティアの日

オランダのアルツハイマー団体が毎年主催するナショナルボランティアの日というものがある。その日に、多くのボランティアや当事者が参加するイベント、アルツハイマーに関連するイベントがオランダ各地で開催されるんだそうだ。オランダは特にボランティア活動が盛んな国ということだが、Rensの大学TU/eでは、その日に大学で高齢者について認知症について、そしてそのような弱者を支援する技術についてのイベントを開催し、どのようにボランティアに関わりうるか考えるきっかけを提供している。単にボランティア活動に参加してもらうというより、高齢者や認知症患者の理解を深めることで、テクノロジーの可能性を皆で探るという、ちょっと知的なボランティア情報提供をしているところがとても面白いと思った。大学の社会への関わり方って、アプローチによってどのようにも変えられるんだなとちょっと感心した。

発表で見せてくれた写真には、多くの老若男女が大学の大講堂に集まり、最新の知見や試みについて学ぶ場になっていることが見て取れる。ボランティアの日というのが祭日なのかわからないけれども、大学があれだけの市民が集まる身近な場所になっているというのがちょっと衝撃だった。そのボランティアの日の様子は、アルツハイマー団体が提供するこちらのYoutubeで見ることができる。

魔法の机Tovertafel

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博士研究の末に生まれた、オランダ語で魔法の机という名前のTovertafelという装置は、認知症の方々のアクティベーションを行う音と光とイメージを活用するゲーム装置だ。認知症の方のアクティビティ支援の活動に、多くの場合子供のおもちゃが使われたりしているそうだが、認知度が落ちていても認知症の高齢者は子供ではない。今までの人生で偉業を成し遂げてきた人たちだ(この視点は欧州では重要で、去年の基調講演でも同じことが課題として挙げられていた:認知症のためのデザイン:Dementia Lab)。高齢者の認知を刺激し、アクティビティを促すためのゲーム装置として構築されたのがTovertafleで、認知症の進展度に合ったゲームを提供することができる。認知度を維持向上させ、身体的能力を活性化させ、社会的行為を促すゲーム。

私の場合は、認知症の高齢者を身近には知らないので、研究を通して知り合った人が中心なのだが、それでも、今までアクティブに活動してきた人生の先輩が何もせずに、身じろぎせずに座っているのをみると、何かこの人たちのためにできないだろうかと思わされる。この、Tovertafelは、いわゆる中興期認知症の方達を主に対象にしており、今まで何ができるんだと思われていた人たちが、実は予想以上に反応を示し、アクティビティを促されるという点で、とても興味深い。

www.youtube.com

多くの発表プロジェクトは、実際の認知症患者やそのパートナーや家族を巻き込み、実施されている。ただ、参加型デザインをする上で、いつでも言えることだろうが、実際に参加させ、関わってもらうには、かなり積極的にプッシュする必要があるようだし、参加者にとっても意味がある枠組みを整えていく必要があるのは変わりない。認知症者を相手にしていても、アウトプットして見えるもの触れるものがあること、また皆が満足する「驚き」をあげる必要があることは、変わらない。あえて、言及して良いならば、違うのは倫理的な観点なのかもしれない。特に、相手が感情をはっきり示せない、意見をはっきり言えない場合、アーティストや技術者の独りよがりのプロジェクトにならないように十分に配慮する必要も出てくるから。