コーディネーションメカニズム
同僚のデンマーク人研究者は、大学の代表として地域の高校(デンマークの高校は基本的に公立)の執行役員(ボードメンバー)を務めている。これは、新興開発地区である大学の立地にも大きく関係しているのだろうが、地域に高校が新設されることに決まった時、IT大学から1人執行役員につくことが取り決められ、それ以降継続してポストが設けられ、大学の教員から選出されている。現在は2代目だ。
興味深いのは、こんな風にして地域で実施される中等教育に大学の知見がうまく活用されるための枠組みが整えられているということだ。よく、大学教育において、社会や企業ののニーズが酌み取られてないという批判がされ、学生の就職状況などが、デンマークの大学の人気ランクやひいては運営資金を左右する。だからこそ大学は、就職状況を気にするし、大学の執行役員には、産業連盟の重鎮が名前を載せてたりする。
今回知ったのは、高校レベルでも同じようなことが行われているということ。ITUは、デンマークでも珍しい新しい(99年)創立の、社会におけるIT活用に特化した研究を中心とする大学で、新しい組織だからこそスムーズにできる取り組みが数多く行われているように見える。地域の新設高校も新しい教育方法を取り入れていて、目指すところが似通っているということもある。ちなみに、この高校の新しい教育の取り組みについては、非常に面白いので、また別の機会に記録したい。
デンマーク社会の特徴として、組織縦断の連携を促進する努力が見られる。そして、それがうまく活用されている例を、電子政府の進展や大規模病院建築など、今まで多々見てきた。それだけでも興味深く思っていたけれど、うまく複雑な社会課題を解決するためには不可欠な多岐にわたるステークホルダーをコーディネートするためのメカニズムが、想像以上に社会の隅々にまで広がっているようなのだ。うーむ。。
ドリームチームの創り方
現在ITUで受け持っている授業の一つでは、1セメスターかけて、学生チームが新規事業や現在抱えている企業の課題をデザインする。授業の半分はセオリーで、残りの半分はその知見を活用した実践だ。学部学生の授業に、コミットしてくれる企業が多々いるのも非常にありがたいが、それだけ面白いアウトプットが何か出てくるかもしれないと期待しているというのもあるんだろう。将来の顧客かもしれないし、社員になるかもしれないし。企業が出してくるのは、実際に企業戦略のコアとなっている課題からちょっと辺境の課題だけれども興味深い新しいアプローチとしてイノベティブな課題もある。このような産学連携は、デンマークではそれほど珍しくない。
オープントーク
Mr. Darcyは、自分の身内に起こった不幸な出来事を公にしないことで家族の名誉を守ろうとしていたけれど、そのMr Whickhamの悪事を他の人が知る機会を作らなかったがために、結局同じような出来事が主人公の妹に降りかかることになってしまった。
最近、イギリス文学の古典Pride and Prejudiceのある1シーンをことあるごとに思い出す。被害を受けた人たちが、声を出していたら起こりえなかった悲劇は、あらゆる状況で起こりうる。Pride and Prejudiceで話されているほど重大なことではないけれども、同じようなことが以前我が身にも降り注いだ。そのことは、前にも多くの人に話したし(デンマークのインター幼稚園)、その時も今でも、その馬鹿話をするのは非常に自分でも情けないのだけれども、同じ悲劇を繰り返さないためにも、時には記録に留めておくのは重要なことなんだろうと思うことにしている。
つい最近、その園で仲良くしていたオランダ人夫婦と話しているときに(親同士は園を離れても仲が良い)、その噂の幼稚園(Children's Garden International Preschool Copenhagen Denmark)のMs. Tina先生が園を離れていたことを知った。私たちは、彼女の教育者としての腕にとても尊敬を覚えていたからこそ、退園を一時は考え直し、退園後は彼女の指導を受けられないことが一番悲しいと思っていた。だけれども、これで、あの園に思い残すことは何一つなくなった。
なぜ、私はその幼稚園に愛する息子を通わせたのか、さらにMs. Tinaもその幼稚園で働こうと思ったのだろうか。私は、その園に通っていた2人の日本人にその園の評判を聞いて、前もってとても良い園らしいという情報を得ていた。でも、今から考えると、彼らには"自分の子供が入っている園を悪く言いたくない"という気持ちが強く働いたんじゃないかと思っている。もしくは担任の先生がとても良かったので、それでよしとしていたか。私の知るその2人は、どう考えてもあの運営者に納得するには、教育に関して真剣に考えている類だったし、英国の教育に関して知見がないとは思えないからだ。もし、私がその人たちに「子供を通わせたいと思うからどんな園か聞きたい」、と問い合わせたらまた返事も違っていたかもしれないと思う。
私たちは、自分の所属している組織のことをできるだけ悪く言いたくないと考える傾向にあるんじゃないだろうか。さらに、知られたくないことには口を噤む傾向にもあるかもしれない。これは個人にとっても社会全体にとっても大きな損失だ。
お別れの作法
土曜日の明け方、夜明け前、4時間車を走らせて、デンマークの最西ユトランド半島のStruerに向かった。友人の父親のお葬式に参列するためだ。正確には旦那の幼馴染のお父さん。以前、迷った末祖母のお葬式に駆けつけず、あとから後悔した思い出があるので、迷っているなら行こうと旦那を促し、前日にユトランド半島への小旅行を決めた。