北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

拡張参加型デザインとリビングラボ

f:id:jensens:20170117205249p:plainフィンランドのアールト大学で参加型デザインの研究をし、現在は、オウル大学に移っているヨハンナさんが「拡張参加型デザインExpanded Participatory Design」と題して研究発表をした。彼女が言っているExpanded Particpatory Designというのは、ITシステムを市民を巻き込んで構築する(トップダウン)ばかりでなく、アクティブユーザが作り上げる自律コミュニティ(citizen self-organization)を中核として、その後の使い勝手の改良をも進めていっているようなコミュニティにおける自律的参加型デザインのこと。公式な(研究資金をもらって進めているような)ITプロジェクトから自律的、かつunofficialITプロジェクトになっている事例をあげて、Expanded Participatory Designと呼んでいる。これは、user-drivenと言い換える事もできるだろうか。そのような自律的なITサービスやシステム開発をどのようにICTで支援できるか、これは今後もとっても重要になっていくことだろう。

自律的に始まったものの例として挙げていた中でもCleaning Day(Homepage - Siivouspäivä)の事例が面白かった。初めはイリーガルに行われていたHelsinki市内での物々交換販売フリーマーケットが、フェイスブックやメイルチンプなどのITのサポートを受け、最終的には市にもサポートされるようになり、自律運営が継続されているというものだ。

 周囲の参加型デザイン関連研究を見ていたり論文を読んでいると、多くの興味深い参加型デザインプロジェクトが報告されている。参加型デザインの欧州の雄、北欧の面目躍如というところだろうか。そして、それは多くの場合、とても美しい物語として提供される。ただそれを聞いて感心するのは、そのプロジェクトが終了した後のことを知るまでのことだ。多くの研究に始められる市民を巻き込んだICT関連プロジェクトでは、必ずしも持続可能性は考えられていなくて、それなりの予算が投入されて進められたITプロジェクトにもかかわらず、プロジェクト資金が切れると実証実験は止まる。高齢者にICTを使わせ健康的な生活を支援しようといったような、今あちらこちらで見られるプロジェクトも、資金がなくなったら使われなくなったタブレットが高齢者施設にゴロゴロしているという状況になっている。時たま、ファシリテータ(大学研究者とか)がいなくなった場に、自律的な継続コミュニティが自然発生的に現れ、ITサービスやシステムが活用されるケースがある。そのようなケースをExpanded Participatory Designとこのヨハンナは言っているみたいだ。

多くの中途半端に打ち捨てられた元参加型プロジェクトを見ていて、参加型デザインには、研究者やデザイナが一線を退いた後も、コミュニティの参加者達で継続できるような持続可能性を意識的に育てていくことが必要なんじゃないかと思うようになっていった。特に、社会問題の解決を課題としてあげているプロジェクトは。

現在温めているリビングラボのプロジェクトは、そんなプロジェクトの始まりから研究者が退いた後コミュニティが中心となって継続していくまで半永久的に持続するコミュニティを支援するためのエコシステムを創ることが可能なんじゃないか、そんな想いから始まっている。社会課題を解決するための実証実験の場として機能するには、コミュニティが必要で、そのコミュニティがきちんと機能するようにデザインしていけば、持続可能性も育てていくことができる。そんなリビングラボのプロジェクトを進めています。