Genealogyという言葉をきいたことがあるだろうか。系図学とか系譜学とか訳されるようだが、「家族の家系を明らかにし家系図を作成する学問」とWikiには記載されている。先祖探しを紐解く鍵としては、家に伝わる古文書などがあればいいのだけれども、国勢調査などの公文書も非常に重要な情報源になる。
デンマークでは、近年趣味人が自分の家系探索をするといったことが流行っているらしく、デンマーク国立公文書館(The Danish National Archives)には、その趣味グループが定期的に会合を開いているんだそうだ。
先日ちょっとした機会をいただき、デンマーク国立公文書館を訪問してきたのだが、面白い話がたくさん聞けた。
そもそも公文書館で保存されている資料は、歴史家や研究者がよく活用していたのだが、系図学が注目されたことで一般趣味人が活用するようになったこと。しかもそのボランティアさんたちが、デジタルアーカイブの充実に大いに貢献しているという。職員によってメタデータが付けられたデータ群でも、まだ不備が多い。ボランティアグループはデータの説明を追記したり、不足分を補ったりということを、自分たちの家系調査の一環で進めてくれるのだそうだ。ボランティアの力も借りて、1600年代のデンマークの国勢調査の結果は、オンラインのデジタルデータベースに収納され、今に生きる私たちは、オンラインデータベースで年代や住所を検索することで、その当時に住んでいた人々の名前や家族構成を知ることができる。このボランティアグループのために、公文書館が負担しているのは、お茶とクッキーのみ。大枠は職員が職務として構築してきたとはいえ、この無償の趣味人たちが、デンマークの公的資料のデジタル化に果たす役割はとても大きい。
デンマークは公的機関での文書を2013年に全て電子化した。現在も紙媒体での文書記録は一部残っているために、公文書館には定期的に公文書が保存のために輸送されてくるのだけれども、館長Asbjorn Hellumさんは、2025年には保存庫拡張の必要がなくなるだろうと見込んでいるという。公式書類がいまだ紙で、デジタルが正式書類と認められない何処かの国とはだいぶ状況が違う。
公文書を後世に残すその意味・意義は何か?と公文書館訪問中にずっと考えていたけれども、とりあえずの今の結論は、公文書は国の、国民の、そして人類の資産なんだろうということ。歴史がない国がある一方、長い歴史を持つ国もある。今世界で起こっていることを見てみると私たちが歴史から学ぶのは必ずしも簡単なことではないことが明白だけれども、それでも歴史があり、その資料を保存してきた国は、その歴史を伝えていく義務がある。歴史上の人たちは、私たちとは全く異なる価値観をもっていたに違いないが、それがどのような価値観だったのか、そして、どのようにものを考えこの国を作り上げてきたのか、直接問い合わせることはできないけれども、過去の資料から紐解くことができる。それは貴重な後世に伝えていくべき財産に違いない。
日本の過去の文書や文献も電子化が進められていてクックパットの江戸ご飯は、その良い一例だろう。昔の記録を現代に蘇らせたという意味でとても素晴らしい試みだ。それは人類の財産として、電子化により多くの人のアクセスを可能にし、その知見が人々に還元されることになった。ただ、このような日の目を見ている資料は、ほんの一部だ。
日本の国立公文書館に貯蔵されている資料は電子化率が14%ほどで、しかもまだまだ紙文書が(省庁とか国会とかで)大量に製造されているんだそうだ。