北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

ベジに未来を見ているバイキング達

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Naturli'のCEO ヘンリク・ルンドさん
 
「未来を知る最善の方法は自ら創り出すことだ」
The best way to predict the fture is to invent it. 
 
コンピュータサイエンティスト、アラン・ケイのこの言葉は、私の尊敬する指導教官が事あるたびに言及していた言葉でもある。未来がどうなるのかなんて、誰にもわからない。どうなるか占ったり予想したりするより、自分で理想的な未来を創ってしまえばいいじゃないか。私の中では、コンピュータサイエンティストがコンセプトをつくる時や開発時の基本スタンスとして、この言葉を記憶している。

 この言葉に、突如として、そして予想外の場所で出会った。そこは、デンマークLEGO本社にもほど近い田舎町ヴァイエンで、Naturli’(ナチュアリ)のCEOヘンリック・ルンド氏にインタビューを始めた時だった。

 
ナチュアリは、1988年創業のデンマーク発植物性ドリンクの先鋒だ。25年ほどソイミルク、ライスミルク、アーモンドミルク、オーツミルクなど7種の植物性ドリンクを淡々と製造販売してきたが、5年ほど前から、植物性ドリンクばかりでなく植物性食品(いわゆるフェイクミート)やフェイクバター、植物性アイスクリームなどの製造販売を始め、こ数年ほど業績を倍々に伸ばしている。この2年は驚くほどの急成長を遂げている。
 
急成長の背景そしてその根っこにあるのは、欧州全域のミレニアムやGenZを中心に広がる地球温暖化環境保護の観点、環境悪化への懸念だ。長い間辺境人的ベジタリアンヴィーガンが主導し、時には宗教性を帯びて広がってきた菜食が、欧州では若者を中心に急速に広がり特別な人たちだけではなくて、もっと一般の人たちにまで広がり市民権を得てきている。
 
欧州の若者は主張する。親が外食しようと言っても、ベジタリアンの選択肢がない場所にはティーンは一緒に行ってくれないし、家の牛乳も子供のリクエストでオーツミルクに変わっていく。(ちなみにデンマークでは、オーツが最も環境に良い植物性ドリンクだと認識されている。以前は豆乳が注目されていたが、豆乳は、デンマーク国内で大豆が育てられてないためカーボンフットプリントが高くなるんだそうだ。ゆえに、”デンマークにとって”は、牛乳よりは環境に良くても、オーツと比較したら最善の選択肢ではないというのがデンマーク人の主張だ。社会環境によって一番良いものは変わるから、例えば日本では豆乳が一番「環境に良い」のかもしれない。)
 
菜食は、今までも健康志向、動物愛護の観点からも注目されてきたが、ここにきて美味しくなっている点も見逃せない。美味しくて、栄養も取れるのであれば、あえて肉じゃなくても、バターやヨーグルトじゃなくても、同じような楽しみを味わえるのであれば、地球に優しい選択肢の方がいい。そんな風にミレニアル世代は考える。
 
今欧州で見られるオーツミルクの年代を超えた広がりにしても、子供がたまたま飲んでいて冷蔵庫にあったから、高血圧の予防に医師から勧められたから、学食にあって値段が牛乳と変わらなかったから、など摂取のきっかけは結構シンプルだ。試したところ意外とクリーミーで美味しかったということで転向したり、選択肢の一つにしたりしている人が意外と多い。そしてそんな人たちは、精神世界が大好きだったりヨガのグルっぽい人というわけじゃない、結構普通のその辺にいそうな人たちなところがミソ。
 
植物由来食品のマーケット的にはまだまだ小さいとはいえ、少しずつ日常生活に組み込まれていくことで、生活の一部になっていく。気がついたらすっかり違う世界になっていたってことがきっと起こる。
 
前述のヘンリックCEOが言ったことは、何も特別なことじゃなくて、今のデンマーク人の考えを代表しているに過ぎないんじゃないだろうか。「僕たちは幸せな国民と言われてる。僕たち北欧バイキングは自然が大好きだし、自然を身近に感じているからこそ、どうにかしなくちゃと考えやすいのかもしれない。でもこれってデンマーク人だけじゃない。そもそも、自然が嫌いな人なんているのか?この世界は一つしかない(There is no Planet B)。今、自分たちがアクションを起こす。僕らが、皆が、変革者になるんだ(Be The Change!)。」
 
話を聞いていて思った。CEOだから、インタビューの途中途中に、PRも入ってくる。もちろん商売だし、収益をあげないといけないし、社員も守らないといけないこともよく分かるから、それはそれで企業としてすべきことだで特に気にならない。でも、正直にビジネスをし、人がハッピーになり、地球が健康でいられる方法があるんだから、そんな世界を創っていかない理由はひとつもないだろ?というメッセージは本物で、単なるCSRとかやってるフリ、よくわかんないけど重要だってみんな言うし、ミレニアルは気にしているから前面に押し出していこう、と言ったような100%打算とは違う。SNSを駆使し、未来を担う若者にダイレクトにメッセージを次々と発信し、インタラクションするナチュアリは、食の世界のイノベーターであり、パイオニアであることは間違いない。少なくともデンマークに住んでいると、環境配慮が毎日の行動の規範になりつつあること、基盤となってきていること、世界はそっちに動いていることがよく分かる。The best way to predict the fture is to invent itが指し示すような新しい世界像をナチュアリは提唱し、新しい世界の構築を推し進めている。
 
話を聞くだけだと、夢の世界にしか存在しないユートピアみたいと思うかもしれない。でも、ちょっとひねくれた天邪鬼の私でも、こんな未来を創っていくんだったら、賛同したいし、(別に無理するわけではないし、美味しいから)コミットするのも悪くない、そんな気持ちになる出会いだった。インタビュー中に、植物由来のアイスクリームをご馳走になったり、オーツミルクの製造ラインを見学させてもらったり、本来であればロスキレフェスティバルで展開されるはずだったスムージーをお土産にもらったりしたけれども…、別にそんなんで買収されない。
本当、熱意溢れるバイキングの魅力ある会社だった。