北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

最先端の研究が伝えるバイリンガル教育の鍵

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バイリンガル教育にとって、大切ないくつかの「鍵」がある。言語学の中でも多言語教育を専門にしているソフィーが言うには、最も重要なのは、言語を混ぜないこと。

例えば我が家は、日本人の私、デンマーク人の夫、娘と息子の4人家族だが、私と夫は英語、私と子供は日本語、夫と子供はデンマーク語で話す。一つの屋根の下の一つの家族間では3つの言語が飛び交っている状況だ。この状況自体は特に問題はない。今や多くの人が多言語環境で生活している。さらに最近の言語学では、多言語話者は認知症にもなりにくいことがわかっているとかで、高齢者に外国語を教えて言語中枢を刺激するという実験が行われていたりするらしい。インテンシブコースを受けることで70代の高齢者でも能力が向上し、さらに1週間に5時間以上取り組むことで、言語の維持・向上が望めるという。

「混ぜてはいけない」というのは、相手によって話す言葉を限定する(環境によって言語を特定する)ということらしい。つまり、私は、子供に話すときには日本語に限定すること。子供に、日本語で話したり、デンマーク語で話したり、英語で話したり、その時々によって変えるのはよくないということだ。自宅では日本語を話し職場では英語を話すということも同じだ。以前から言語は混ぜてはいけないということは聞いていたし、私は職場でも英語環境だったので日常生活(夫との会話も)は英語が中心で、子供との会話には日本語をつかっていた。時折しか使わないデンマーク語は、正直なところ子供と話したいと思えるほど上手ではなかったので、それなりにうまくいっていた。

ただ、この1年ほどで状況が変わってきていた。まず格段に子供のンマーク語が流暢になってきた。さらに、私のデンマーク語が向上してきたのか慣れてきたのか、夫と子供の会話にデンマーク語でちょっかいを入れることができるようになってしまった。さらに、子供の英語が向上してきたことで、子供が親の会話に介入してくるようになった。

今現在の家族の会話は、一つの会話で英語とデンマーク語と日本語が入り乱れている状況だ。例えば昨日の夜はこんな感じだった。デンマーク語での親子の会話に私が介入することで、娘が英語にスイッチし、息子も英語で考えを述べる。ただ、息子は言いたいことを言い切れずにデンマーク語にスイッチして、私がその息子にデンマーク語でコメントを言う。

言語の専門家ソフィ曰く、子供のバイリンガル教育には、一貫性が必要だという。科学的研究で、子供にとって、(複数であったとしても)母語を育てることが大切であることがわかっている。そして、コンテキストではなくて相手により言語をスイッチするので、一人の人が複数の言語を混ぜないことが重要だということが証明されているのだそうだ。つまり母親がその時々に応じて使う言語を変えるのは、子供にとって母語を構成したり言語を学ぶにはマイナスにしかならない。それが事実だとすると、母親が子供に英語を学ばせたいと考え、日本語と英語を混ぜて話しかけるのは最悪の学習法だ。子供の脳がキャパオーバーになってしまうのだという。日本の環境でマルチリンガルにしたいのであれば、母親は日本語を貫き、学校(先生や友達)を多言語環境にするのがいいのだろうと思う。

バイリンガルではない私にとっては、多言語環境はもう少し複雑だ。最近、私の言語能力が格段に後退しているように感じることが増えてきた。デンマーク語は少し伸びているかもしれないが、英語の文法が乱れボキャブラリーが貧弱になる、言葉や文章が出てこない。そして、日本語も同様で、シンタックスがおかしくなったり、文章が時折出てこなくなる。文章を読んでいても書いていても似たような状況になり、まだ高齢者には早いのに脳が働かなくなっているような恐ろしい感覚を感じていた。

成人の脳も繊細だ。人が複数言語を扱う場合には、それなりのケアが必要で、せめて1日もしくは数日間その言語に注力することが、言語能力を維持するためには不可欠である事が研究からわかっているんだそうだ。つまり、脳のオーバーロードを防ぐためにも1日に複数言語を扱ったタスクをすることは望ましくないのだという。日常生活において言語をスイッチし続けなくてはいけない状況に長期間置かれると脳がキャパオーバになってしまう。

そこまで聞いて、ここ1ヶ月ほど私がやってきたことはどうやらよくないことがわかった。学生に合わせてデンマーク語と英語を行き来し、論文執筆で英語と日本語を行き来していた。戦略的に言語を選択して使っていかないと効率が下がるという科学的な知見が経験則でも証明された形だ。「あなたが、この数日間体調が優れないとか、疲れているように感じるとか、全く不思議じゃないわ。どう考えても脳に負荷を与えすぎてる」とソフィアに言われて、改めて仕事の仕方を考え直さないといけないなと思わされた。

言語学では、マルチリンガル言語能力の獲得の方法多言語能力の維持方法として常識となっていることでも一般的に知られてないことはまだまだ多い。