北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

2020年夏Vol.3: おいしいレストランに行ってきた

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La Table de Kamiya

自宅待機期間になんだか手持ち無沙汰で、Twitterをよく覗いていた。その時によく見かけたのが、料理を教えてくれるレストランのオーナーシェフ美味しいチョコレートを作るパティシエのツイート。こんな時だからちょっと時間かけて美味しいものとか作ろうかなとか、皆が思っていた時期なのかもしれない。プロの調理人が惜しげもなく自分のレシピを公開していたり、突然オンラインクッキング講座を始めたり、ちょっとした面白いカオスが繰り広げられていた。

 その中で、オンラインのタイミングが合っているのか、ツイートを即時閲覧することが多くてちょっと気になっていたシェフがいる。その方は、例に漏れず突然レストランをクローズせざるを得なくなり、直前に大量購入した季節のアスパラガスをどうしようかということで悩んでらっしゃんたらしい。はじめの時期のことを私は知らないが、お見かけするようになった時には、すでに、アスパラガスの料理レシピを公開したり、オンライン講座を開いたり活躍中で、その後、あれよあれよという間にアスパラのレシピばかりを集めた「アスパラガスの薄い本」を出版していた。この状況下で絶対に苦しいだろ?という状況にもかかわらず、飄々とツイートを繰り返し、不満を垂れることなく、次から次に新しい策を繰り広げていく様を見ていて、どんな人なんだろうと興味が湧いた。

世界が混乱し人々が窮地に陥ると必ずスカーレットの前に現れてくるレッド=バトラーは波乱の時代の落とし子で、本人だって苦しくても当然の状況で、いつでも身なりよく紳士ヅラして、キラキラ現れスカーレットを支える。そして逆境であればあるほど嫌みなほどに輝くから、周囲の社会の疲弊具合と、社会のギスギスとした悪循環との対比がより目立ってくる。小学生の頃に初めて「風と共に去りぬ」を読んだ時には、スカーレットと同様にアシュレイが素敵に思え、消える運命ならば消えていく人生も素敵と思ったし、レッド=バトラーはよく理解できなかった。レッド=バトラーの例えはめちゃくちゃ悪いのは承知しているけれども、レストランが営業ができなくなって国の支援が足りない、倒産した、というニュースがデンマーク国営テレビで流れるたびに、皆がアシュレイに見えた。そして、言うなればあのTwitterのシェフはレッド=バトラーだ。

Twitterで元気をくれた人は他にもいるけれども、このシェフの何が素敵だと思わされたのだろうと色々と考えてみて、ふと気づいたことがある。このシェフは、自分も大変な中で愚痴をこぼす事なく、自分の1番のスキル(この場合は料理)を偶然の結果かもしれないけれども人を励ますために使ったってことなんだ。ちなみに、これは、自分反省会も含めたコメントであることをお断りしておきます。

身動きが取れるようになったら行ってみようと思ったそのシェフのレストランに行く機会は想定外に早く訪れた。ボルドーから車を飛ばして、8時間。雑多なレストランやカフェが並んでいるニースから少し西側の、カーニュ。目的のレストランの近くで車を停めて、夕方の涼しくなってきた風を感じながら海の音と静かに会話する声を聞きながら歩いていく。コートダジュールの中でも少し落ち着いた感じの通りをしばらく歩いていくと、海辺に向かって暖かい雰囲気が通りにまで広がっているお店があった。それが、目指していたレストラン「La Table de Kamiya」だった。

窓際の素敵な席に案内され、グラスでロゼを注文。プレフィクスで3-5皿の前菜、メイン、デザートのコース料理から選ぶ。メロンのお通しが出てきて気分が高まる。インスタでも見た見目麗しい前菜が出てくる。ちょっと暑い昼間の日差しから一息ついたこの夕食の時間にぴったりな涼しげな桃とチーズの前菜。味がしっかりしているのにさっぱり感もある夏のフォアグラのパテ。

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桃とチーズの前菜

メインのマグロのあぶりは、見た目の美しさもさることながら、欧州の魚料理にありがちな魚臭さが全くなく、何よりもソースの味に驚愕した。3種類のソースはお互いを牽制することなく、でもそれぞれの味わいを出していて、冷たいラタトゥーユとのハーモニーも楽しい。ラム肉は独特の味わいを保ちながらも臭みがなく、しかもどのように調理をしたのかとろけるような柔らかさ。

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マグロのハーフグリル。ソースも美味しい

デザートは、パティシエの奥さんが作っているのだろうか。たっぷりお酒が効いた定番のBabaは、懐かしさでいっぱいになったし、柚子(だったかな?)のソルベは、最近好きなデンマークのデザート、シトロンフロマージュを思い起こさせる夏の味だった。そして子供が頼んだチョコレートのデザートも細部にまで工夫が行き届いている。

グラス1杯のはずのロゼワインは結局3杯になり、Babaのお酒も効いて、いつも以上に世界が私の味方をしてくれた。少々大胆になってしまって、最後はシェフに「ファンです!」とミーハーなコメントを言いに行って一緒に写真を撮ってもらい、気になっていた世界一をとったいちごのコンフィチュールもゲット。忙しい時間に、時間を割いて一緒に写真を撮ってくれてありがとうございます。

忘れちゃいけないのが、今回の旅は子供との旅。フランスでは良くあることらしいけれども、メニューにはない子供向けのお料理を用意してくれた。普段食事をしてくれない息子が完食、の驚き。

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海でお散歩してから帰路についた

澄んだ空気が開放的なレストランの隅々にまで広がる。外の席に座るフランス人家族も、半二階席に陣取っている朗らかなグループも、対面に座っている二家族の団欒ディナーもみんな気持ち良さそうで、時折お喋りや笑い声が心地よく広がる。レストランの前に広がる海に行こうかと家族で話して、店を出た。おいしいレストランは、良い空気や素敵な人たちに囲まれている場所でした。