北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

「鮨あなば」にいってきた

 

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鮨あなば:カウンター8名限定だ

あのコペンハーゲンの超有名寿司屋『鮨あなば』にいってきた。予約を取ろうと思い立つときには、毎回ウェイティングリスト待ちしか残ってない。日本で食べる方が断然美味しいことには変わりないだろうし、頑張って予約するまでもないかな、と思い続けていたけれども、縁あって行く機会に恵まれた。

正直な感想を言おう。

 

 感動で涙が出てくるほどだった。

 

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前菜が出てきた。美しい。

コロナ禍で少々感傷的になっていたのかもしれない。日本にしばらく行けてなかったので、感傷的になっていたのかもしれない。それを差し引いても、よかった。心からお勧めしたい。では、何がよかったのか。どこがお勧めなのか、個人的な感想を次に記録しておきたいと思う。

1. 雰囲気がよかった。

入り口にはのれん。のれんをくぐって店内に入ると、カウンターと8脚の椅子が並んでいる。カウンターの向こうもこちら側のカウンターの上も、日本を感じさせるこまごまするモノがたくさんだ。テーブルに置かれた豆皿はデンマークの景色を描いたデンマーク製の陶器だし、カウンターに並べられた8脚の椅子もおそらくデンマーク製だ。カウンターはデンマーク人の木製家具士Andrea Stokholmさんが作っていることも知っている。和の雰囲気を漂わせて心を鷲掴みにされて溶かされてから、ふと我に返り、食器の一部や内装がデンマーク人のアーティストの手によるものだという事実に改めて気がつかされる。その和とデンマークのバランスが気持ちよく感じられた。

2.料理が美しかった。

日本料理も美しいが、『鮨あなば』の料理も美しい。ただ、『鮨あなば』の料理は、日本の静かな美しさとは異なり、ちょっとフェミニンな感じで、華やかな彩りを得意とするゼラニウムの料理を思わせる。寿司自体は、赤酢を使っていて赤みを帯びたシャリ。そこに北欧の魚がうまくマッチしている。

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赤酢のシャリ
3.素材がよかった。

前菜が出てきた時点で、板前さんが山葵(ワサビ)を木の箱から取り出しすり出した。その手つきはまるで銀座の久兵衛のカウンターでみるソレと重なるほどで、まず1回目の涙。すった山葵は、日本の寿司屋のように作業エリアの端に山盛りにセットする。山葵は、最近アイスランドアイルランドでも作られているらしいが、「まだ味は追いつかない」、だから毎週日本から空輸しているんだそうだ。

だが、全てを日本から空輸しているわけではない。一つづつネタの説明をしてくれるのだが、海産物のほとんどがデンマーク周辺主にユトランドの海、もしくは遠くてもノルウェーアイスランドの地物だ。日本の寿司屋では聞いたことのない魚ばかりだが、どれもが寿司としてきちんと成立している。地域を歩いてネタを探す、というシェフの心意気が素晴らしくて、また涙が出た。

4.マリアージュがよかった。

日本の素材と北欧の素材をうまく合わせ、その季節に一番の組み合わせで提供する。その組み合わせは、日本酒のカップリングにも現れていた。せっかくだから1杯目はシャンパンを頼んだけれども、その後は日本酒コースで5種類の日本酒が続く。自分では気づけないし選べない組み合わせをシェフが選び、提供してくれるこの贅沢。キュレーションをしてくれる人の選択肢がいつも自分の好みと合うわけではないのだけれども、今回は大成功だった。

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純米吟醸からにごり酒、スパークリングも
その他考察

私たちの他に3組のカップルが同じカウンタにつき、鮨をつまむ。日本酒コースを選んだのは8人のうち我々を含め3名のみ。その他の人たちはビールやワイン。カウンターには、小さなナプキンが用意され、手で食べるスタイル。「ナプキンで指先で軽く濡らして鮨を取り、口に運ぶ」などと指示されて、少なくとも3人は、心の中でのけぞっていたみたいだ。日本でも皆が手で食べるわけでもないから、そんなもんだろう。

赤酢のシャリ、さらにタレを板前さんがつけてから寿司を出す店を日本でも何軒か知っているが、これは海外では意外といい方法なのかもしれないと思った。日本人としてSUSHIレストランで気になるのは、みなさん醤油をつけすぎることだ。海鮮の味が死ぬ〜と横で思いつつ、何度、背筋を凍らせる食べ方をみてきたことか。魚の味を楽しみシャリをポロポロにしないためには、醤油をつけすぎちゃいけない。ただ、欧州では魚臭いSUSHIを出す店舗も多いことから、必要とあれば醤油の味で臭みをどうにか消そうとすることも、個人的には有りだ。

結論。美味しかった。全て日本の真似事というのではなくて、ローカライズしつつ新しい境地を作り出し、日本人でも嬉しくなるクオリティを維持している点が評価できる。そう、ここの鮨は、ここでしか食べられない。

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〆の天ぷら

いや、そりゃぁ高かったさ…。高級寿司屋に行き慣れている父にも「そりゃ高いな」といわしめた。でも...、また行きたい。

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鮨あなば