北欧生活研究所

2005年より北欧在住。北欧の生活・子育て・人間関係,デザイン諸々について考えています.

異文化の分かり合えなさは永遠に続くのか

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しばらく悩み続けていることがある。親切心であることがわかるから受け入れたいのに、私の心はギョッと反応してしまうことに関してだ。そして、私は自分の心の狭さに驚き、自己嫌悪に落ちるのだ。

ちょっと前に、「ファスト&スロー」という書籍でダニエル・カーネマンというノーベル賞を取った認知心理学者が注目された。この人の理論の一つに、人はシステム1とシステム2思考に基づくというものがある。速い思考であるシステム1は直感や感情のように自動的に発動するもので、日常生活のおおかたの判断を下している。一方、遅い思考のシステム2は熟慮のことで、意識的に努力しないと起動しない。システム1の判断を退けてシステム2を働かすのは、多くの人にとって難しい。

最近考えることというのは、「文化的な要素も、私たちの体には、システム1として埋め込まれるのだろうか」ということだ。

もしあなたが日本人であったり、日本で生まれ育った人だとしたら、次のことをちょっとイメージして見てほしい。

Q. あなたが、恋人から白い菊の花束をプレゼントされたらどう思いますか。

Q. 誰かが白いシャツに黒いネクタイをしてディナーや会合に出てきたらどう思いますか。

 最近、私は、とても近しい人から菊の花束をもらった。一瞬ギョッとして表情がこわばったのだろうか、即座に「素敵な花束ありがとう」の反応ができなかった。ニコニコと「これデンマークの季節の花なのよ、すてきでしょ?」と暗に感想(お礼?)を促されて、「あぁ、素敵だね。ありがとう。」というのが精一杯だった。その後1週間ほどダイニングに飾られたその菊の花束を見るたびに私の心は一瞬ギョッとする。

もちろん、デンマーク生活が16年目になる私は知っている。デンマークでは、白菊になんの意味もないこと(花言葉は「真実」らしい)、黄色の菊にもなんの意味もないこと(花言葉は「敗れた恋」)。そして、黒ネクタイは、ファッションコンシャスなデンマーク人のマスト・アイテムにすぎないこと。

16年も住んでそんなことにいちいちギョッとするのをやめようよ、と自分に言いたいが、残念ながら私の体は反応してしまう。そして、理知的な私が出てきて、「デンマークではそれはなんでもないことなんだ」と語りかけてくれる。私は、いつか変わることができるのだろうか?白菊を見て、ギョッとする以前に、理性的に「日本では仏花、でも、デンマークでは秋の花」と考えられるようになるのだろうか。

私の旦那は、知識として白菊が仏花であることを知っていて、理性で判断する。だから、私に白菊の花束をプレゼントをすることはないだろう。だが、私と同じように白菊をみてギョッとすることはないのだと考えると、我々の感覚の間に横たわる大きな壁というか谷間に改めて気づかされる。

デンマークで一時期問題になったムハンマド風刺画問題は、今フランスでも再燃している。欧州の人たちは「表現の自由」を声高に訴える。その気持ちは理性としてはわからなくもないが、異文化の中で生活をしている私は、イスラムの人たちがギョッして息がつまる気持ちの方も痛いほどよくわかるのだ。理性の前に嫌悪がくる。欧州人は、理性的に考えて「表現の自由」を主張するが、人は直感や感情もある。心理的にどうしようもない気持ちが湧き上がるということに、意識が向かないのだろうか。人が嫌だと言っていることを「表現の自由」という言葉であえて表現しようとするその理由が、私にはやはり理解できない。

卑近な例で恐縮だが、私は、旦那から例え愛情たっぷりでも白菊の花束をもらいたくないし(別の花束にしてくれ!)、黒ネクタイをするかっこいいデンマーク男子を前にかなり引いてしまう自分がいる。

『ユーロビジョン歌合戦』を薦める理由

Netflixのお馬鹿映画、『ユーロビジョン歌合戦 〜ファイア・サーガ物語〜』(Eurovision Song Contest: The Story of Fire Saga)が面白かった。

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ユーロビジョン・コンテストは、1956年から欧州で開催されているソングコンテストで、国の代表者がコンテストに参加し、国同士の戦いが繰り広げられる。かつてABBAが参加していたことで、私も名前だけは知っていた。北欧に住んでいて一度もきちんと見たことがなかったのは、一度見たときに、デーモンなんかが出てきたりして、なんだか仮装コンテストみたいなこと、めちゃくちゃ舞台が派手で食傷気味になってしまったから。

でも、この映画は面白かった。ユーロビジョンが好きな人も楽しめると思う。

舞台はアイスランドの田舎町。ユーロビジョンコンテストに出場を夢ている「ファイヤー・サーガ」のラースは、両思いだけれども一歩進めないシグリットと一緒に、ユーロビジョンコンテストに出場できることになる。どうしようもないラースのパパがピアース・ブロスナンだったり、ド派手なロシア代表がセクシーすぎたり、美男美女がたくさん出てくる映画で、ちょっとした息抜きにぴったりだ。そして、要所要所にとても北欧っぽい雰囲気にあふれている(米国映画だけれども)。

ここからちょっとネタバレ。

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「鮨あなば」にいってきた

 

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鮨あなば:カウンター8名限定だ

あのコペンハーゲンの超有名寿司屋『鮨あなば』にいってきた。予約を取ろうと思い立つときには、毎回ウェイティングリスト待ちしか残ってない。日本で食べる方が断然美味しいことには変わりないだろうし、頑張って予約するまでもないかな、と思い続けていたけれども、縁あって行く機会に恵まれた。

正直な感想を言おう。

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2020年夏Vol.3: おいしいレストランに行ってきた

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La Table de Kamiya

自宅待機期間になんだか手持ち無沙汰で、Twitterをよく覗いていた。その時によく見かけたのが、料理を教えてくれるレストランのオーナーシェフ美味しいチョコレートを作るパティシエのツイート。こんな時だからちょっと時間かけて美味しいものとか作ろうかなとか、皆が思っていた時期なのかもしれない。プロの調理人が惜しげもなく自分のレシピを公開していたり、突然オンラインクッキング講座を始めたり、ちょっとした面白いカオスが繰り広げられていた。

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2020年夏Vol.2: ボルドー旅行の勧め

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ワイン畑があちこちに広がる

ワインを飲むようになってから、ボルドーがずっと気になっていた。新大陸より欧州、イタリアよりフランスのワイン。ブルゴーニュよりもボルドー。心をがっつりつかまれるような深い濃い色と渋みの強いボルドーワインの味。年を重ねたワインは余計に味が出てくる。口の中でずっと大切にしておきたいような丸みを帯びた不思議な感覚に変わる。結婚式のワインにと大好きな義理の父が選んでくれた結婚パーティの赤ワインがサン=テミリオンのシャトーワインだったのも何かの縁かもしれない。これは、秘密だけれども、昔付き合ってた人はボルドーワインが大好きだった。だから私の中では、ボルドーワインは、大勢で楽しむのもいいけれども、一人でグラス1杯ちょっと夜が濃くなった時間に飲むのも悪くない。

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風呂場で歌わない人はサイコパスであるという件について

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娘がシャワーを浴びながら何事か喋っている。時々歌が挟まり、おしゃべりも加わる。なんだか楽しそうなんだけれども、シャワールームに娘は一人。独り言だ。隣に座っていた旦那に、「君もシャワー浴びながら独り言を言うよね?」と話しかけると、「しないの?」と、逆に問われた。旦那は歌わない人だが、風呂場で低い声で独り言を言い続ける。そして「うぉ〜」時折叫ぶ。

そういえば、昔付き合ってたとてつもなく優秀な人も、風呂に入った時に独り言を必ず言っていた。時々しか単語が判別できなかったので、何を喋っているのか聞いたことがある。1日の反省会だそうだ。シャワーを浴びながら1日の出来事を思い起こして、反省会をするのだという。

「他人がシャワーを浴びる」状況に居合わせるというのは、ちょっと親密な状況でもないとなかなかないので、私個人の事例がそれほどあるわけではないのだが、日本人でも、日本人外でもそれなりにいることが経験則からわかっている。

シャワーから出てきた娘に、一人で喋ってたよね?と話しかけたら「え?しないの?」と、またしても逆に問われることになった。そして追い討ちをかけるように、「シャワーでひとりごとを言わない人はサイコパスだ」という理論を教えてくれた。tiktokでは常識なのだそうだ。

2020年夏 Vol.1

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コートダジュールパンプローヌビーチ(Pampelonne)も人がそれほどいない

17時間車を走らせて、ボルドーに住む小中高時代の友人に会いに行った。15年の間、現れては消えていたボルドー訪問が現実になったのはコロナのおかげかもしれない。長い休みには、日本や米国とか、欧州以外の遠くに行くことが多くて、いつも次はボルドーにと思いながら実現できてなかった。今回、2週間の夏季休暇の旅先を考えていた時、思い浮かんだ場所がボルドー だった。

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